第8章の1

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第8章の1

それから1ヶ月、ギルバートは一切修道院へは足を向けなかった。 ギルバートにしてみれば、自分が一度死んだかもしれない場所へ行くのは、気味が悪かったのかもしれないし、私は単にもう行き辛かったのだ。 エドワード・フェニックスが、どうやってギルバートを一度殺し、そしてそれを再生したのか、その最大の謎が全く解かれていない限り、完全なる我々の敗北なのだから。 そして我々は、会話の中で一度もそのことについて触れなかった。 私はずっと気にはなっていたが、もはや私の芝居が嘘であったと、大衆の面前で公になってしまった以上、例の共犯者探しも出来なくなってしまったわけで…。 もしかしたら、いつの間にか、エドワード・フェニックスなんていう男のことはなかったことになって、真相は迷宮入りしてしまうかもしれない。 なんて、不本意なことを考えていた矢先、また私は仕事で厄介な殺人事件を抱えてしまった。 再び我が家のベッドが遠くなってしまい、アパートへ帰るのもままならなくなっていた時のこと。 夜遅く、3日振りに帰宅した私は、3階の階段の踊場で、上から降りてきた若者と偶然出くわしたのだ。 「やぁギルバート。今から何処かへ行くのかね?」と、何気なく私が言うと、彼は明らかに一瞬動揺した。 「あ…ああ、警部こそ今帰りか?遅いな」 何だか私にも増して、このところギルバートは大変疲れているように見えた。 また新たな依頼でも抱えて大変なのかもしれない、と私はそう考えていたが…。 「何処へ行くんだ?仕事かね?」 私の二度目の問いに、ギルバートは躊躇って一度口をつぐんだ。 そして…。 「…解けたのさ。“あの謎”が」と言った。 “解けた”…? “あの謎”…? 私は一瞬ピンとこなかった。 現在は、今抱えている大仕事の方が重大事だったからだ。 しかし。 「ま…まさか。エドワード・フェニックスのことかい…?」 私はすぐに思い出し、心臓の鼓動がみるみるうちにその回数を増していくのを覚えた。 あの謎が解けたなんて…。 「で、い…今から何処へ行くつもりなんだね…?まさか…」 「奴の家さ」 そう宣言すると、ギルバートは私を放り出して階段を降りていく…。 “ついて来なくていい”と言う若者に、私は無理矢理に同伴を申し出た。 遂に最大の謎が解き明かされるのだ。
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