第8章の1

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その瞬間を、私はどうしてもこの目で見たかった。 いつぞやのワイングラスの時のように、答えを知ってみれば、それは結構単純なことなのかもしれないが…。 ギルバートの報せた大ニュースに、私の疲労感は今や既にほとんど吹き飛んでいた。 “再生”のトリックが解けたということは、やはりエドワード・フェニックスという男はペテン師だったということ。 遂に若き弁護士が、あの男に勝利する時がやってきたのだ。 いつかギルバートが、あの男の後を尾行した際に、“ただの貧乏人”と言っていた言葉を思い出した。 若者についてやって来たそこは、確かにスラム街のど真ん中だったのだ。 1ヶ月前、この近くでエドワードを見かけたのは、奴があの路地裏を通って、この場所へ帰るからだったのか。 赤茶けた屋根の下に、貧しい家が一軒、私達の目の前に存在していた。 「ここかね…?あの男の家というのは…?」 私の言葉が示す通り、そこは大金持ち相手に散々金を巻き上げてきたペテン師の家というには、あまりにも拍子抜けさせられるアジトだった。 「間違いないさ。俺はこの目で、あの野郎がここに帰ってくのを確かめたんだからな」 そう言い切って、ギルバートは目の前の家の扉を数度叩いた。 遠慮のない音が辺りに響き渡る。 しばらく待つと、扉は内開きに薄く開けられた。 その隙間から、住人が警戒心たっぷりにこちらを覗いている。 私の予想に反して、私達を内側からじろじろと観察していたのは、黒ずくめの男ではなく、美しい赤毛の娘だった。 ペテン師と同じ、透けるような白い肌に、大きな青い瞳…。 私はその瞳が、いつかのギルバートのように、真っ赤に充血しているのを見つけて、ハッとした。 泣いていたのか…? 私がそう思った瞬間だった。 横に居た若者が、ほとんど扉を蹴破るようにして、無理矢理中に侵入したのである。 「あ…こら!」と私は制止しようとしたのだが…。 「あいつは何処だ!!」とギルバートは、未だかつてない程けたたましい勢いで、そこに居た娘を問いただした。 もはや怒鳴りつけるという方に近かったくらいだ。 娘は何も言わずに、涙を数滴頬に零した。 そしてそれが全ての答えのようだった。 娘は、脆弱な力で我々にその場所を示してみせた。 ギルバートが、娘の指差した正面の部屋へと駆け込む。 私も「失礼!」と断って、彼の後に続いた。
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