第8章の2

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第8章の2

エドワード・フェニックス死亡の報せは、今まで彼の神通力の為に私財を投げ打ってきた金持ち達を失意の底に突き落とした。 エドワードは、彼らを騙してトン面したわけではない。 あの男の信奉者達は、当人が亡くなった今でさえその力を信じていて、彼が亡くなったことで、もはやその恩恵にあずかれなくなってしまったことをとても悔いていた。 エドワードの葬儀は、例の修道院で厳かに執り行われ、そこには数多くの信者達が、その死を悼んで詰め掛けたのだ。 もしも本当に、エドワード・フェニックスという男が、我々の信じていた通りのペテン師だったとしたなら、彼は大嘘つきでありながら、死んでなお信奉者達を欺き通した、まさに“天才”であると言えるだろう。 私とギルバートは、結局それから一度もエドワード信奉者達と接触することなく、修道院へもエドワードの家へも足を運ぶことはなく、勿論ペテン師の葬儀にも顔を出すことはなかった。 本当に、後味の良くない事件だったが、あの男の死によって、何もかも全て終わってしまって、最初から何も無かったかのように、私には仕事一筋の日々が戻ってきた。 私はギルバートが解き明かしたという“謎”の答えが大変気になっていたが、傍目にも彼自身の落ち込みようが相当なものだったので、しばらくの間、口にはしないことに決めた。 それに私には、先頭に立って解決してゆかねばならない事件が、他に幾つもあったし、私はまた、しばらくあのアパートに帰ることが出来なくなっていたのだ。 それでも、なんとか頭を痛めていた殺人事件を無事解決し、1週間振りに帰宅を許されたら、私は、久し振りにあの若者と酒でもゆっくり酌み交わしたくなり、ギルバートの部屋を訪ねてみることにした。 ひょっとしたら、今日こそは私の知りたかったことが、彼の口から聞けるかもしれないという、淡い期待もあったのだ。 しかし、私がギルバートの部屋を幾度ノックしてみても、彼は居ないのか、眠ってでもいるのか、全く返事をしなかった。 「ギルバート!おいギルバート、居ないのかね?」 私は半分無駄と分かりつつも、その部屋の住人に向かって問い掛けてみた。なんだか無性に、今日はあの若者にからかわれてみたい気持ちだったのだ。 すると、代わりにギルバートの隣人である主婦が、扉から顔を覗かせて私に言った。
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