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第9章の1
そしてそれから10年になる。
あのあと、私は新聞で、誰かが“エドワード・フェニックス”の名で、何処か地方の孤児院に大金を寄付したというニュースを読んだ。
エドワード信奉者だった金持ち達は、奇跡の男が神の力で生き返ったのだと沸き立ったが、それ以来当人が再びこの都会に現れることはなく、新聞に名前が載るようなことも一切なかったので、信奉者達の期待も次第に消沈していった。
私は、ギルバートの推理はやはり正解だったのだと思った。
エドワード・フェニックスという男には“共犯者”が確実に存在していたのだ。
つまり、共犯がいたということは、エドワードはやはり“ペテン師”だったという結論に結びつく。
刑事を辞めてから私は、《FIND OUT “JOKER”》という、ギルバートの最後のメッセージに立ち返ってみることにした。
真相が知りたいのなら、“ジョーカー”を探せ。
つまり“共犯者”を探せという意味だと私は受け取って、当時のエドワード信奉者達にもう一度会ってみることにしたのだ。
熱も冷めた今でなら、何か聞き出すことも可能かもしれないと、そう思って。
しかし、どの人間も皆一様に歳を取っていて、中には亡くなって、もはや話を聞くことの出来なくなった者も多くいた。
それでも私は、根気よく、1人1人の人間と直接対面したのだが、私の会うことの出来た人々の中に、ギルバートの言う“ジョーカー”らしき者を見つけることは、遂にできなかったのである。
そんな張り合いがあったせいか、病気が理由で退職したのにも関わらず、私の病はさほど酷くはならなかった。
とはいえ、今も療養は続けているけれど…。
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