第9章の1

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この文章を書き記す上で、私は冒頭で、10年もの長い歳月を経て、遂に真相に辿り着いたのだと言った。 それはこの事件の、最後にして最大の、あの“再生”の謎についてである。 死んだ人間が、何故再びこの世に蘇ったのか…? 考えてみれば至極単純なことだった。 それはまるで、空のワイングラスから、どうやったら水が湧き出してくるのかと、私が頭を抱えていたのと同じくらい、とても馬鹿馬鹿しいことでもあった。 ようは、ギルバートの言っていたように“発想の転換”をすればよかったのだ。 “先入観を無くすこと”である。 死んだ人間が、生き返ってくる筈などないのなら、ギルバートの主張通り、死んだと思えた人間が、本当は生きていればいいのである。 短剣で刺された人間は、造りものの血を流しながら、腹を刺された振りをして、散々もがき苦しんで見せた挙げ句に、意識を失った振りをすればいいのだ。 そして刺した人間が“再生”の為の儀式を執り行った後、まるでその時生き返ったように、目を開けるだけでいい。 そうすれば、第三者には死んだ人間が、不思議な力によって再生されたように見える。 そう、エドワード・フェニックスの共犯者は、ギルバート・ライアン以外他にいないのだ。 考えてみれば、当たり前過ぎる結論だったが、それを邪魔していたのは、ギルバートとエドワードが敵同士であるという大前提であった。 私は、ようやくそのことに気付いた時、思わず自分の間抜けさに大笑いしてしまった。 どこまで私は、あの若者におちょくられていたのだろうか。 《FIND OUT “JOKER”》という、謎めいたメッセージを残し、何も語らぬままさっさと私の目の前からトン面してしまった、あのペテン師。 ギルバート・ライアンはまさに“天才”だった。 親しげに私に近付き、私という恰好の隠れ蓑を手に入れ、散々間違った先入観を植え付けた挙げ句に、利用して、騙して、逃げた。 その最悪の友人から、今朝方、10年振りに一通の手紙が届いたのである。 私は差出人の名前を見た瞬間、驚きと懐かしさと怒りで全身が震える思いだった。 私の人生の中で、最も許し難い男は、一体今更私に何と言い訳をするつもりなのだろうか。
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