~手紙~

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~手紙~

警部、久し振り。 ああそういえば、もう警部は警部じゃないんだっけ? っていうか、昔っから警部って警部らしくなかったよな。 まぁいいけど。 そうそう、ところで“ジョーカー”は見つかったかい?流石の警部でも、もう見つかったでしょ? だから言ったじゃないか、“先入観は捨てろ”って。 不可能なことは、いくら頑張ったって不可能なんだから。考えたって仕方がないさ。 俺、最初は警部を利用してやる気で近づいたんだけど、警部が余りに馬鹿正直な善人なもんだから、だんだん巻き込むのがかわいそうに思えてきたんだ。 だから、俺について来なくていいって、あれ程何度も言ったのにさ。 ちょっと面白がって、エドワードのことを話したら、都合よく話に乗ってきちまうんだもんなぁ。 だからやっぱりちょっと、利用させてもらったけど。 あそこまでころっと騙されてくれるとは意外だったな。 この人、本当に巷で事件解決してんのかなって、疑問に思えてくるくらい単純でさ。 俺とエドワードのことを話すよ。 俺と奴とは幼なじみ。 俺は弁護士でも何でもなくって、ただのとある工場主の放蕩息子さ。 エドワードとその母親は、俺の親父が経営してた工場で労働させられてた、元百姓だ。 俺の父親が、あんまり過酷な労働をさせるから、エドワードの母親は、奴がまだ10歳ぐらいの時に死んじまった。 見つかってはよく親父に怒られていたけど、俺は、しょっちゅううちの工場で働かされてる百姓のガキ共と遊んでたから、そんなエドワードの事情も知ってた。 だから俺は、親父のことが大嫌いだったんだ。 親父だけじゃない、世の中の金持ちみんな嫌いだった。 どいつもこいつも、金と自分の立身出世のことしか考えちゃいない。 その為には、何だって犠牲にしてやろうっていう根性が本当に嫌いだった。 エドワードはまだ小さかったから、そのままうちで働かされ続けるか、孤児院へ行くしか選択肢がなかった。 だから俺は言ったんだ。 一緒に黙って出て行こうって。 どこかの街に行って、2人で生きる道を探せばいいんだと、俺は単純に考えて、上手く親父の金をちょろまかして、エドワードと2人で家出したのさ。 勿論、実際は俺の考えている程、何もかも上手くいくわけがなかった。 俺達は都会で散々苦労して、金が尽きたら金持ち騙してちょろまかす。 そんな生活してたんだ。
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