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れたん?だって、わんわんや、にゃんにゃんかてお腹から生まれてくるやん」
「いや、いや、かつきはおなかなんかにいない」
なんかかなしくなってきた。「きっと、たまごだよ」
きっとそうだ。
「はは、卵か……それはええ。けど、パパは間違いなく母ちゃんのお腹や。お腹から出てくるとき、なんか暖かくて、赤くて、ほんで血の臭いが臭かった。なんかそこから早く逃げ出したくって、こう……どろどろしたプールを掻き分けて掻き分けて、空気の吸える場所、光の見える場所を求めて探して、肉を掻き分けて、腸を足で蹴飛ばして、やっと外が見えて……おかしいやろ、普通、そんなこと覚えてへんやろな。けど、パパの記憶にははっきりと生まれたときの記憶が刻まれてるんや。けど、不思議なことに、そのあと抱かれたはずの母ちゃんの顔
も温もりも覚えてへん。そして、何でか生まれたあとの記憶は急に、二帖くらいの安アパートに一人取り残されているシーンになったんや。
保育園なんか行かされてへん。かつきはママが仕事行ってる間、保育園行ってるやろ」
「うん! ほいくえんすき!」
「友達いっぱいできた?」
「うん、やっちゃんとか、けんちゃんとか、なかよしだよ」
「よかったなぁ。パパにはそんなもんおらへんかった。金がなかったんか、男手一人で育ててるのが恥ずかしかったんかわからへんけど、保育園にも預けずに、パパはずっとアパートの部屋にほったらかしやった。本当に二帖くらいのアパートなんよ。裸電球がぶら下がっていて、布団なんか布っきれかわからんもんに包まってた。
ごはんも食べさせられてたんやろか?そのアパートであんまりうまいもん食べてた記憶はないな。朝になったら、お父ちゃんがいなくなって、昼も帰ってこなくて、いつ帰ってくるかわからんで、不安とひもじさに泣きながら、おもちゃとして与えられてた、紙芝居セットみたいなやつを読んで、まぎらわしてたな。お父ちゃんがおらん間は、ただ待ってるだけしかでけへんかった。
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