浅田剣一1

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 6回1死ランナー無し。3度目の歌川の打席。  打たれたのは外角高めのストレートと、内角低めのスライダー。  って、コイツにはコースも球種も関係無いのかよっ!  こうなったら、奥の手を使うしかないな。  松田も俺の期待通りのサイン。  振りかぶりながら、ボールを指に挟んだ。  見送られてもいい。フォークがあると意識させるだけでも、バッターは迷いが生じる。  腕を振り、イイ感じに抜けた。  次の瞬間には、体勢を崩して空振る歌川の姿があった。  チャンスだ。  松田もわかってる。すぐに俺に返して決まってるサインを出す。  俺は歌川が構えたかどうか、というタイミングで投球モーションに入った。  その混乱した中、間髪入れずに投げ込む150キロ近いストレートを打てるワケがない。  これで追い込んだ――  歌川がバットを寝かせた。  ――セーフティーっ!  さっきまであんなに強行して、ここでやるかよ!?  コンッ  これまた絶妙な三塁線へのバント。  強打を警戒して、外野だけでなく、内野も少し下がっていた。  その穴を、あっさり狙われた。  サードが素手で捕ったが、完全に間に合わずファーストに投げるのを諦めた。  なんてヤツだ…  
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