浅田剣一1

8/18
前へ
/444ページ
次へ
 その後、何とか後続を抑え、無死2塁のピンチをしのいだ。 「浅田」  キャッチャーの松田に話しかけられたが、何を言われるかは分かる。 「初球大事に、切り替えて、」 「勝ちに行こう」  ウチのチームの合言葉。会話の最後には「勝ちに行く」と言う。強気な野球がウチの伝統で、勝利への執念を定着していく。  そうだ、  たった一人の打撃成績を気にしてる場合じゃない。  2回以降、要注意のクリーンアップも完璧に封じ込め、俺は立ち直った。  ――やっぱ意識しちゃうよな。  3回、ツーアウト。打順がトップに戻る。 『1番、ショート、歌川君』  冷静になれ、俺。  この場面、やはり長打警戒だ。  松田のサインからして、長打を打たせないよう、球種もコースも、狙いを絞らせない配球。  カウント2-1から、高めにストレート。釣り球にも反応しない。  …反応しない?  完全に見切られてるのか?  いや、その前からあんまり打席で反応が無い。  ――ヤマ張ってるな。  でも、追い込まれたらそうも言ってらんないだろ。次のスライダーを内角低め――左なら8割以上空振るコースに決める。  これで終わりだ!  渾身の力で腕を振る。  決まっ…  ヤバい…!  ――歌川の鋭いスイングがボールを捉えた。
/444ページ

最初のコメントを投稿しよう!

591人が本棚に入れています
本棚に追加