『七つの大罪』

2/26
前へ
/519ページ
次へ
 帰宅途中で見慣れた頭を見つけた。  長く伸びた髪を揺らしながら辺りをキョロキョロと見回している。     「由季」     「! あーーお兄ちゃん!」      小走り、いや由季にとっては全力疾走だ。その勢いのまま飛び付いてくる由季を受け止めて抱き上げる。     「こんなところで何をしてるんだ?」     「あのねあのね由季ね、小さな太陽追いかけてきたの!」     「そっか」     「でもどっかに行っちゃった」     「うん。なら一緒に帰ろっか」     「うん!」      下ろして手を繋いで歩く。由季は可愛いから周りの気をひいてしまう。将来は大変になるだろうな。お兄ちゃんとしてはとても不安です。     「ねぇねぇお兄ちゃん」     「ん? なに?」     「伊織お姉ちゃんどこに行ったの?」     「ん、遠いところ」      人には言っちゃいけない場所。考えたくもない。     「杙奈お姉ちゃんは?」     「……遠いところ」      胸が苦しくなって涙が出そうだった。由季にも、誰にも真実は教えていない。  教えたところで到底理解出来ない。オレとしても『七つの大罪』を殺すまでは余計なことをしたくない。  だから、遠いところに行った、と言うしかない。  そう言えば済む。     「いつ帰って来るの?」     「いつだろうね」     「早く帰って来ないかなー」      由季はまだ知らなくていい。一生知らなくてもいい。数年もすれば記憶から薄れて大して気にもならなくなるだろう。  オレは忘れることができそうにない。
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2074人が本棚に入れています
本棚に追加