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帰宅途中で見慣れた頭を見つけた。
長く伸びた髪を揺らしながら辺りをキョロキョロと見回している。
「由季」
「! あーーお兄ちゃん!」
小走り、いや由季にとっては全力疾走だ。その勢いのまま飛び付いてくる由季を受け止めて抱き上げる。
「こんなところで何をしてるんだ?」
「あのねあのね由季ね、小さな太陽追いかけてきたの!」
「そっか」
「でもどっかに行っちゃった」
「うん。なら一緒に帰ろっか」
「うん!」
下ろして手を繋いで歩く。由季は可愛いから周りの気をひいてしまう。将来は大変になるだろうな。お兄ちゃんとしてはとても不安です。
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「ん? なに?」
「伊織お姉ちゃんどこに行ったの?」
「ん、遠いところ」
人には言っちゃいけない場所。考えたくもない。
「杙奈お姉ちゃんは?」
「……遠いところ」
胸が苦しくなって涙が出そうだった。由季にも、誰にも真実は教えていない。
教えたところで到底理解出来ない。オレとしても『七つの大罪』を殺すまでは余計なことをしたくない。
だから、遠いところに行った、と言うしかない。
そう言えば済む。
「いつ帰って来るの?」
「いつだろうね」
「早く帰って来ないかなー」
由季はまだ知らなくていい。一生知らなくてもいい。数年もすれば記憶から薄れて大して気にもならなくなるだろう。
オレは忘れることができそうにない。
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