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此処からは私の話になるが、私も行き場の無い追われる人間であり、幼少の頃から人付き合いも苦手で、ずっと人を避けるような生活を送っていたのだ。
故、住まいも持てず、旅人として孤独に暮らしてきた。だから生まれてこの方、喜びも悲しみも分け合う友人も居おらず、両親さえ早くに亡くした。
私が其の様な人間であるから、何処へ行っても厄介者としてしか扱って貰えなかった。冷たい人々の視線を前に、私はますます人と触れるという事に心を閉ざしていった。
そんな孤独な旅の途中、私達二人は出逢った。
年も随分離れてはいるし、最初のうちは言葉も通じなかったが、同じ痛みを持つ孤独な者同士、肩を寄せ合って生きて行けると思い、それからの後の旅は行動を共にした。
そしてこの鬼山に身を潜め、二人で細々と暮らしているという訳なのだ。
私は彼女と出逢う事で、とても救われた。笑う事さえ満足に出来なかった私の心を優しく溶かし、癒してくれた。私にとって由也は、大切な家族のような子だ。人が人で在る事に理由が要らないように、他人がどのように畏れようとも、由也は『由也』なのだから。
それ故、私は由也にとても感謝していた。 だから彼女の笑顔を守る為に、私は生きている。
――それが、今の私の存在理由なのだ。
朝食の用意をしていると、狭い家に米の炊ける良い香りが広がった。
炊き上がった白い飯を御椀によそい、山菜の煮物や味噌汁を食事用の小さな卓袱台の上に運んでいると、微笑みながら由也が起きて来た。そして朝の挨拶代わりに、深くお辞儀をする。
「相変わらず、由也の起床の時間は正確だな」
思わず顔がほころんでしまう。「朝食にしよう」
由也は微笑んで頷いた。
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