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「何、怪我?」
彼女は言葉を喋れない分、私よりも随分目も耳も良い。だから、遠く離れている人間の様子でも分かるのだった。更に、手振りで語りだす。
「助ける?人間を!?」
私は、突然の彼女の動作――言葉に驚き、少し大きな声を上げてしまった。そんな私の姿を由也は、しっかり見据えて大きく頷いた。彼女は、怪我をしている人間を助けたい、と言うのだ。
人間の姿が肉眼で判別出来るくらいの距離まで近づくと、成程、由也の言う通りだった。何処か具合を悪くしている感じのする少女を、二人が支え、引きずるような形でゆっくりと此方に歩いて来るのだ。
「由也、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
しかし由也は答えなかった。身振りで私に何かを伝えるそぶりも見せず、黙って俯いている。
「お前は、人間に酷い目に遭わされたのだぞ!それなのに、人間を助けるというのか!?」
由也が悲しげな瞳で私を見つめ、そして小さく頷いた。
自分がどういう目にあった等、関係無いのだ。困っている者は助けたい――この子はそういう優しい子だから。
躊躇う私の手を離し、由也はまっすぐ子供達を見据え、歩き出した。「待つんだ」
出遅れた私は、由也の手を取った。「お前が行っても人間と話しをすることができないだろう?」
由也は、とても悲しそうな顔で私を見つめる。
「仕方ないな。一人で行かせられぬから、私も行こう」
「!!」
顔を輝かせ、笑う由也。それが、私の気分を何とも言えぬ複雑なものにさせた。
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