第一章

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  「田舎だからかしらね」  てきとうに返事をしつつ、少女は青年から奪った煙草を口にくわえる。 「にがい」  煙草をくわえたまま、顔をしかめる。 「いや、火ついてないから」 「知ってる」 「味しないでしょ」 「にがい」 「ああ、俺がくわえたからかね」  青年がそう言うと、少女は急に顔を赤くして煙草を口から離した。 「いや、見てたろうに」 「私奪ったもの!」 「いや、くわえてるところを奪ったよね?」  少女は顔を紅潮させたまま、憎いものでも扱うかのように地面に煙草を叩きつけた。 「いや、捨てるなよもったいない。って言うか何故吸った」 「吸ってみたかったのよ!」  完全に逆ギレだった。青年は大きくため息をつく。 「子供が吸うもんじゃないって。特に女の子はね」 「二度と吸わないわよ、そんなもん!」  今の場合においては煙草に何の罪もないし、むしろ煙草で被る害の中ではかなり軽い部類に入るだろう。  しかし少女は酷く憎らしそうに捨てた煙草を何度も踏みつける。  青年は、そんな若い子の思考が理解出来ず、何を急にそんなに苛ついているのかわからないまま、ただ土に還らないであろうフィルターの心配ばかりするのみだった。 「学校に行くわ」  苛立ち混じりにそう宣言し立ち上がる。律儀というか、どこか抜けているのかもしれない。 「授業じゃないんだっけ。部活か何かかい?」 「そうよ、“部活か何か”よ」 「そうか。ま、車に気をつけて。いってらっしゃい」 「ええ、行ってくるわ。夕方には帰るから」  青年は虚を突かれたような表情で少女の顔を見上げる。  何故少女の帰宅時間を知らねばならない。何のサービスも承っていないはずだ。  しかし、少女は今度は別の苛立ち、むしろ呆れに近い表情で言う。 「泊まるところないんでしょう?」  どうやら、先ほどの会話は本気だったらしい。  青年は後頭部をかきつつ、曖昧に返事する。  先ほど少女が言ったように、田舎ならではの風習なのかもしれない。  はたまた、単に少女が世間知らずで危機管理能力が足りないのか。  どちらにせよ、せっかくだから好意に甘えようと考えて、ふと青年は思う。  むしろ自分が危険を察知出来てないのではないか。  甘い話には裏があると言う。油断していると頭から喰われてしまうのではないか。  そう一瞬頭によぎったが、しかし判断はかわらなかった。 「よろしく頼むよ」  
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