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「田舎だからかしらね」
てきとうに返事をしつつ、少女は青年から奪った煙草を口にくわえる。
「にがい」
煙草をくわえたまま、顔をしかめる。
「いや、火ついてないから」
「知ってる」
「味しないでしょ」
「にがい」
「ああ、俺がくわえたからかね」
青年がそう言うと、少女は急に顔を赤くして煙草を口から離した。
「いや、見てたろうに」
「私奪ったもの!」
「いや、くわえてるところを奪ったよね?」
少女は顔を紅潮させたまま、憎いものでも扱うかのように地面に煙草を叩きつけた。
「いや、捨てるなよもったいない。って言うか何故吸った」
「吸ってみたかったのよ!」
完全に逆ギレだった。青年は大きくため息をつく。
「子供が吸うもんじゃないって。特に女の子はね」
「二度と吸わないわよ、そんなもん!」
今の場合においては煙草に何の罪もないし、むしろ煙草で被る害の中ではかなり軽い部類に入るだろう。
しかし少女は酷く憎らしそうに捨てた煙草を何度も踏みつける。
青年は、そんな若い子の思考が理解出来ず、何を急にそんなに苛ついているのかわからないまま、ただ土に還らないであろうフィルターの心配ばかりするのみだった。
「学校に行くわ」
苛立ち混じりにそう宣言し立ち上がる。律儀というか、どこか抜けているのかもしれない。
「授業じゃないんだっけ。部活か何かかい?」
「そうよ、“部活か何か”よ」
「そうか。ま、車に気をつけて。いってらっしゃい」
「ええ、行ってくるわ。夕方には帰るから」
青年は虚を突かれたような表情で少女の顔を見上げる。
何故少女の帰宅時間を知らねばならない。何のサービスも承っていないはずだ。
しかし、少女は今度は別の苛立ち、むしろ呆れに近い表情で言う。
「泊まるところないんでしょう?」
どうやら、先ほどの会話は本気だったらしい。
青年は後頭部をかきつつ、曖昧に返事する。
先ほど少女が言ったように、田舎ならではの風習なのかもしれない。
はたまた、単に少女が世間知らずで危機管理能力が足りないのか。
どちらにせよ、せっかくだから好意に甘えようと考えて、ふと青年は思う。
むしろ自分が危険を察知出来てないのではないか。
甘い話には裏があると言う。油断していると頭から喰われてしまうのではないか。
そう一瞬頭によぎったが、しかし判断はかわらなかった。
「よろしく頼むよ」
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