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「よく俺がよそ者だってわかったね?」
「わかるわよ。よそ者はよそ者の匂いがするからねぇ」
言って女の子はからからと笑う。
青年は改めて感心したように息をついた。
「やっぱわかるもんなんだ。住民はみんな顔を把握してるってやつ?」
しかし、女の子はぴたりと笑うのを止め、意外そうな表情をする。
「あれ、信じちゃった? いくら田舎って言っても、住民の顔みんな把握するなんて無理無理。まあ、何となく雰囲気はわかるけどさ」
「え、じゃあ、なんでわかったの?」
「んー、言っても、やっぱ田舎だからかな。旅行客自体珍しいのは事実だし、その辺で噂になってたよ」
女の子が指さしたのは主婦やら老人の立ち話現場だった。
青年に気がつくと、主婦らは視線をそらしたり誤魔化す様子もなく笑顔で会釈してきた。青年も会釈を返す。
「あたしはそれを立ち聞きしただけ」
「そうだったのか。……でも、あの子──その『お上さんとこのお嬢さん』はそういうのに関係なくここの住人じゃないって当てて見せたけど」
「あー、まあ、あの子はそういうの敏感なんじゃない?」
「敏感?」
「うん。あの子も外の人間だったし。それより、暇してるんならあたしと遊ばない?」
女の子は青年の答えを聞かずに腕をとって歩き始めた。
唐突な行動に呆気にとられながらも、青年は特別抗おうともせずに、女の子の進行に任せる。そうしながらも、女の子の言葉の中で気になったことを考えていた。
(外の人間……どこかから引っ越してきたってことなのか?)
「オッス、おばちゃん。アイスふたつちょーだい」
「おやおや、そちらのお兄さんは昨日、お上さんのお嬢さんと人形劇をやったっていうお兄さんかな?」
駄菓子屋だろうか。
小さな店のおばさんが、物珍しそうに青年に近寄る。
しかし、本当に噂が回るのは早いらしい。
「えらく格好いいわねぇ。もう仲良くなったのかい、しーちゃん?」
「エヘヘ、ラブラブです」
そう言って『しーちゃん』と呼ばれた女の子は腕をより密に絡みつけてくる。青年は慌てて否定した。
「違いますって、まだ会ったばかりで」
「わかってるわよ。お嬢のお手つきだものねぇ」
「愛に障害はつきものよ」
青年は話についていけず、とりあえずいっそ抱きしめてきそうなくらい接近する女の子から半歩ばかり距離をとった。
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