第一章

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   しぐさの案内で町を四時間程歩き回り、ツツジはおよその町像を得ることが出来た。  昨日の少女とは違い、しぐさは自分からよく話しかけてきた。飽きもしないし、歩いた距離に比べて疲労感はさほど感じない。  今も休憩にと公園のベンチに座ってはいるが、歩こうと思えばまだ全然歩けそうだった。 「あんまり大きな町じゃないでしょ? 遊ぶとこもないし」 「確かに大きくはないね。まあ、その点では俺の故郷も大きくはなかったけど」 「お兄ちゃんの故郷はどんなとこ?」  空を仰ぐ。同じ空の下にある故郷に想いを馳せるように。  ツツジはふっと、あまり見せない大人っぽい笑みを少しだけ浮かべた。 「いい街だったよ。街と人が、そう、繋がっていてね」 「町と人が、繋がってる?」  しぐさはきょとんとした表情で聞き返した。 「うん。そうだな。例えば、運命の赤い糸ってあるだろ?」 「“あるだろ“って……まあ、そういうの信じてる人もいるよね」 「そういうのなんだよ。街と人が繋がってるっていうのは」  ますますわからないといった表情で、しぐさは小首を傾げる。 「町と人が赤い糸で繋がってるの?」 「ま、そんな感じ。赤くはないけどね」 「ちょっと詩的だね。でも、わかるなぁ。あたしもこの町が好きだし、そりゃあ不便なこともあるけど、それでも離れようと思わないのはきっと繋がってるからなんだと思うよ」  赤い糸と言う比喩になぞるように、しぐさは手のひら掲げて小指を揺らす。  そこに糸が繋がっていたなら、伸縮しただろうか。 「ところで、知りたい場所があるんだけど」 「どこどこ? この町なら大体わかるし、案内するよ」 「えっと、『お上さんとこのお嬢さん』が通ってる学校ってわかるかい?」  ツツジが訊ねると、しぐさは一瞬だけ目を丸くして、にんまりと口端を伸ばして微笑む。 「そりゃ知ってるよ、あたしの学校だからね。案内ならまかせて。でも、残念だなぁ。やっぱりそうなのかぁ」  残念というより、むしろ新たに面白いものを見つけたような表情で、しぐさはわざとらしくうなだれる。 「何のこと?」 「またまたぁ! ま、いろいろ大変だと思うけど頑張りなよ、お兄ちゃん」  そう言ってしぐさはツツジをぱしぱしと叩く。  不健全なことを考えていそうなので、ツツジはとりあえず額を軽く小突いた。  しかし、何故かしぐさは額をさすりながらも嬉しそうに微笑むばかりだった。  
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