第一章

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  「ともかく、学校に案内してあげるよ」 「ああ、頼む」  しぐさはにこりと微笑んで頷き、手に提げていたビニール袋を揺らしながら、軽やかなステップで歩き始めた。  ふと、そのビニール袋が気になり、ツツジは訊ねる。 「その袋には何が入ってるんだ?」 「へ? あ、これ?」  しぐさは立ち止まって、袋を掲げる。 「別に大した物じゃないよ。お使いを頼まれててさ」 「え、いいのか?」 「痛むようなものじゃないから平気よ。すぐに必要なものでもないし」  そう言って、しぐさは意味もなくビニール袋を振り回す。  遠心力を得たそれは、さして力も入れずに握っていたしぐさの手からすり抜けるように解放され、大空を目指すように高らかに飛んでいってしまった。 「しまった! さすがにそれはヤバい!」  しぐさは焦った様子でビニール袋を追いかける。ツツジも一応追いかけた。  ビニール袋は孤を描いて落下していく。そして、目測によるその落下地点には、通行人がいた。  ツツジは中身を知らないが、しぐさはさらに慌てた様子で走る速度をあげる。  しかし、その甲斐もなく、それはもう無事に通行人の脳天へと直撃を果たしたのだった。 「痛て! なんじゃこりゃぁ!」  しかも、当たったのは見るからに柄の悪そうな男だった。 「あちゃー運悪ぅ」 「てめぇかクソアマ!」  男は物凄い形相で近づいてくる。  しかし、しぐさは逃げようとする様子もなく、まるでおみくじで凶を引いた時程度の苦笑で、運が悪いと呟いていた。 「ほらほら、お兄ちゃん。今時珍しい田舎の不良だよ? 興奮するといけないから写真はお断りね」  まるで危険だとは思っていないような発言を、相手にも聞こえるであろう声量で放つ。  当然、相手はさらに殺気立って奇声にも近い声で威嚇してきた。 「いやぁ、肝が据わってるのか……随分余裕だね」 「いやはや。剣呑剣呑」 「なんだてめぇこらなめてんのか!」 「あははは、見てお兄ちゃん。不良が言いそうなセリフのオンパレード!」  果たしてその余裕はどこからくるのだろうか、しぐさは指を差して不良を笑う。  彼女が格闘技大会優勝くらいの実力を持っているのだとしたら、それくらいの余裕を持ってもおかしくはないかもしれないが、成人であるツツジの虚力を借りているなら、正直危険である。 (暴力は苦手だからな……)  とは言っても、状況を打破出来ないこともないのだが。  
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