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不良は一瞬にして興味を失ったように、ツツジ達のもとから離れてどこかへと行ってしまった。
軽く息をつく。何事もなく済んだようだ。
「ありゃりゃ? おーい、どこいくのよ!」
状況が一切把握出来ていないしぐさは、去っていく不良の背中に向かって叫ぶが、不良の方は「変な奴が騒いでいる」程度の不審な目でこちらを一瞥するだけで、構わず去ってしまった。
「何なのよ、まったく」
「田舎の不良も暇じゃないんだろ。それより、何であんな挑発を?」
「あんな中途半端な田舎不良はね、こっちが怖がったら負けなんだから」
「しかし、実際襲われたらどうする気だったんだよ」
「コテンパンにしてやったね」
ツツジは呆れたように溜め息をついた。
果たしてその自信はどこからくるのだろうか。
「なにか格闘技の経験が?」
「ん……う、ん」
しぐさはあからさまに目を泳がせる。
恐らく、何の経験もないのだろう。よく今まで無事でいたものだ、とツツジはむしろ感心した。
「とにかく、危ないからああ言うのには近づくな。あと、自分が悪い時はちゃんと謝りなさい」
「むぅ……お兄ちゃんがそういうなら」
本当に妹に説教している気分になりながらも、実妹からは逆の立場だった思い出の方が強く、内心では苦笑する。
「で、あれには結局何が入ってたんだ?」
不良の脳天に直撃したビニール袋を指さして訊ねる。
しぐさは思い出したように慌てて、ビニール袋を取りに走った。
「んー……ちょっとへこんでるけど無事かな。よかった」
後ろからツツジがのぞき込む。
「えっと、何が?」
「これ」
しぐさは振り返り袋の口を広げて見せた。
中には、缶詰のようなものがいくつか入っていた。
こんなものが空から降ってきたらさぞ痛かろう。不良には同情を禁じ得ない。
「猫まっしぐら。にゃーにゃー」
「え? あ、これ猫缶か。猫飼ってるのか?」
「いいや、野良猫の」
「餌付けか。にしては上質なものを与えてるねぇ」
「ま、あたしのお金じゃないからどーでも良いけどね。それより、学校行こ。もうお昼だし、変なとこで無駄な時間過ごしちゃったから」
「そうだな。あんまり長く付き合わせても悪いし」
「いいけど。暇だし」
しぐさは身を翻し、ツツジの手を取る。
「さあ、こっちだよー」
そうして、そのまま最初のステップの軽さで学校へと向かって出発した。
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