第一章

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   不良は一瞬にして興味を失ったように、ツツジ達のもとから離れてどこかへと行ってしまった。  軽く息をつく。何事もなく済んだようだ。 「ありゃりゃ? おーい、どこいくのよ!」  状況が一切把握出来ていないしぐさは、去っていく不良の背中に向かって叫ぶが、不良の方は「変な奴が騒いでいる」程度の不審な目でこちらを一瞥するだけで、構わず去ってしまった。 「何なのよ、まったく」 「田舎の不良も暇じゃないんだろ。それより、何であんな挑発を?」 「あんな中途半端な田舎不良はね、こっちが怖がったら負けなんだから」 「しかし、実際襲われたらどうする気だったんだよ」 「コテンパンにしてやったね」  ツツジは呆れたように溜め息をついた。  果たしてその自信はどこからくるのだろうか。 「なにか格闘技の経験が?」 「ん……う、ん」  しぐさはあからさまに目を泳がせる。  恐らく、何の経験もないのだろう。よく今まで無事でいたものだ、とツツジはむしろ感心した。 「とにかく、危ないからああ言うのには近づくな。あと、自分が悪い時はちゃんと謝りなさい」 「むぅ……お兄ちゃんがそういうなら」  本当に妹に説教している気分になりながらも、実妹からは逆の立場だった思い出の方が強く、内心では苦笑する。 「で、あれには結局何が入ってたんだ?」  不良の脳天に直撃したビニール袋を指さして訊ねる。  しぐさは思い出したように慌てて、ビニール袋を取りに走った。 「んー……ちょっとへこんでるけど無事かな。よかった」  後ろからツツジがのぞき込む。 「えっと、何が?」 「これ」  しぐさは振り返り袋の口を広げて見せた。  中には、缶詰のようなものがいくつか入っていた。  こんなものが空から降ってきたらさぞ痛かろう。不良には同情を禁じ得ない。 「猫まっしぐら。にゃーにゃー」 「え? あ、これ猫缶か。猫飼ってるのか?」 「いいや、野良猫の」 「餌付けか。にしては上質なものを与えてるねぇ」 「ま、あたしのお金じゃないからどーでも良いけどね。それより、学校行こ。もうお昼だし、変なとこで無駄な時間過ごしちゃったから」 「そうだな。あんまり長く付き合わせても悪いし」 「いいけど。暇だし」  しぐさは身を翻し、ツツジの手を取る。 「さあ、こっちだよー」  そうして、そのまま最初のステップの軽さで学校へと向かって出発した。  
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