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「到着っ」
最後の一歩を大股で踏みしめ、しぐさは校門の前で仁王立ちした。
「ここがあたしの学校だよ」
古びた校舎だ。
だが、今もなお通い続ける生徒たちの学び舎として、堂々とした佇まいで建っている。
ツツジが通っていた学校も新しくはなかったが、共学化に伴い改修工事が行われたため、目の前の学校のような年代を漂わせる雰囲気はあまり感じられなかった。
「いい学校だな」
皮肉でも、お世辞でもない。見て感じた本心からの感想だった。
学校というより、田舎の家を思わせる雰囲気を感じた。
「うーん……通ってる人間にはわからないなぁ。学校は学校だしね」
「ま、そうかもな」
「それに、ここも廃校が決まったしね」
「えっ……」
ツツジは学校を見上げてから、しぐさに視線を戻す。
どうでもよさそうに言ってはいるが、やはりどこか悲しそうにしぐさは微笑んでいた。
しかし、その表情を見せたのも一瞬で、すぐにいつものころころと変わる表情に戻った。
「さて。どうするの? ここでお嬢を待つの?」
「いや、夕方に帰るって言ってたし、とりあえず場所がわかったからいいよ」
「そっか、じゃあご飯食べようか。お昼だしね」
「ああ、そうか。どこか食える場所ってある?」
そう訊ねると、しぐさは指を三本立てて突き出した。
「三択です」
「おう」
指を折りながら、しぐさは一つずつ選択肢を提示する。
「1、学校に忍び込んで誰かにたかる。
2、学校に侵入して家庭科室で調理部に食べ物をねだる。
3、学校に潜入してお嬢を探して恵んでもらう。さあ、どれ!」
「4、コンビニで買うからいいよ」
「えー、潜入しようよ学校にさぁ! 私服で見つかったら大変ね。しかも、一人は成人男性、どえりゃー騒ぎになるわ。さあ!」
「さあ、じゃない。普通に通報されるって。しかも、それは3番?」
「いいじゃん。お嬢ならまだ知り合いだしぃ。ほら、スネークの如く」
「蛇がどうしたって?」
よほど人を不審者に仕立て上げたいのか、しぐさは変に高いテンションで食い下がってくる。
学校の前で騒いでいると、何もしなくても通報されそうなので、喚くしぐさを何とかその場から動かして、ツツジは場所も知らないコンビニへと向かった。
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