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「そっちじゃなくて、こっちだよ、お兄ちゃん」
ややふてくされた様子でしぐさは進行方向を正した。
そんな様子にツツジは思わず溜め息を零す。
「いや、あのな。マジでシャレにならないんだって。物騒な事件が沢山起きてるだろ?」
「お兄ちゃん、物騒な人間なの?」
「そうじゃなくて、学校側に迷惑だろ?」
しぐさは未だ一向に納得しそうにはない様子でツツジを上目遣いで睨みつける。
言い分はともかく、上目遣いには心が揺ぎそうだった。
「田舎だから通報なんてされないって」
「いや、関係ないだろ。それに、言うほど田舎じゃない」
「えっ、そうなの?」
しぐさは意外そうに小首を傾げる。
いったい、自分の住む町をどれだけ格下に見ていたのだろうか。
「だって、テレビで見る町中は凄いじゃない? 比べらんないよ」
「まあ、都内とかはね。でも、あちこち旅をしてきた俺から言わせてもらえば、これぐらいの町はザラにあるよ。コンビニはちゃんとあるし、商店街だって夕方には騒がしくなるんじゃないのか? 都市としての発達はしてないけど、多分君が思ってるほど田舎ではない」
「そうなんだ……」
しぐさは目をパチパチと瞬かせる。ウロコでも出すつもりだろうか。
「田舎って言うより、世間知らずかな? 知識が偏り過ぎてるんだ。いや、でもノスタルジックな雰囲気は強いかもしれない」
「わがんね」
「いや、無理に田舎っぽく喋らなくていいから」
喋っている間にコンビニに到着する。
適当に食べる物を買い、来た道を戻る。
「無理に付き合わなくても良かったんだけど。家に用意されてるんじゃないのか?」
ツツジ同様、しぐさもコンビニで自分用の食べ物を購入していた。しかも一人分にしてはやや多い。
「勘違いしてるようだけど、最初はあたしの暇つぶしにお兄ちゃんが付き合ってくれてたんだからね」
笑いながらそう言う。
確かに、思い出してみれば商店街で誘ったのはしぐさの方からだった。
行動の基準がツツジに傾いていたから、それを忘れていたようだ。
「ところで、どこに向かってるんだ?」
どこでも食べれるように、手軽な物を買ったのだが、しぐさは迷うことなくまっすぐ来た道を戻っていた。
まるでどこか、目的地があるようにも見える。
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