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「到着っ」
大股で一歩踏み出して、しぐさは立ち止まる。目的地についたらしい。
デジャヴのようなものを感じながら、ツツジは半眼でしぐさの向こう側の建物を見据える。
「学校に見えるけど」
「うんっ、学校だねぇ」
「いや、うーん。そうか。理解してくれてなかったかぁ」
「理解はしたつもり。だから、学校の敷地内ではない。こっちよ、お兄ちゃん」
そう言ってしぐさは学校の敷地に沿うように、裏側に回る。ツツジも慌ててそれを追った。
グラウンドやら、テニスコートやら、野球場があり、さらに半周すると体育館の裏側に出た。
フェンスで仕切られているため、当然中には入れない。
「ここで、学校に入った気分にでも浸る気か?」
普通の路上なので、食事をするのに適した場所とは言い難い。
しかし、しぐさは否定も肯定もせずに、悪戯っぽい笑みを浮かべるばかりだった。
そして、おもむろに手近な石ころを拾い上げると、それを体育館の窓に向かって──
「おい馬鹿っ!」
ツツジが制止するも虚しく、しぐさの手から石ころが放たれ、窓に直撃した。
物を放り投げる癖でもあるのだろうか。
窓は割れることなく、ツツジはほっと胸をなで下ろす。
しぐさを説教する間もなく、今度はその窓が開いて中から乾いた破裂音のようなものが聞こえた。
と、ほぼ同時に二人の足元を何かが弾く。
そのすぐ後に窓から顔を覗かせたのは明らかに不機嫌な顔をした少女だった。
「えっと、誰?」
「『お上さんとこのお嬢さん』」
「は?」
意外な返答に目を見開いて、再び窓を見上げる。
あの人形劇の少女とは別人だ。雰囲気は似ているかもしれないが、明らかに同一人物ではない。
ということは、ツツジが勘違いしていたのだろうか。
窓から顔を覗かせる少女は、ツツジに気づくと、値踏みするように視線を上下させ、そしてふいと窓から居なくなり、そのまま窓は閉まってしまった。
「嫌われた?」
「どうだろね。ちなみにあそこは放送室ね、体育館の。で、飛んできたのはBB弾」
「解説どうも」
果たして、何故放送室に石を投げたのか。何故放送室からBB弾が飛んでくるのか。
どちらかと言えば、それを知りたかった。
しかし、それも少女が降りてきたことによって遮断される。
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