第一章

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   日が沈む前には公演は終了していた。片づけも終え、二人が市民館から出てくる。 「お疲れさま」  西日に目を細めながら、少女は薄く微笑む。  人形劇は概ね成功だった。  さすがに初の試みで少女はあまり上手く出来なかったが、青年のフォローもあって、最後まで演じることが出来た。  子ども達が相手だと、小手先の演技力よりわかりやすい大げさな振る舞いの方がウケていたようだ。勉強にもなった。 「でも、最後はちょっと私の知ってる物語と違ってたわね。凄く焦った」 「ああ、あれは俺のオリジナル。まあでも、最後まで頑張ったねぇ。センスあると思うよ」 「ありがと」  少女は素直にお礼を告げた。 「商店街、行くの?」 「いや。今日は止めておく」 「そう。あ、ちょっと待ってて」  そう言って少女は再び市民館の中へと入っていく。  しばらくして、缶ジュースを二本持って戻って来た。 「これお礼」 「悪いね」 「いいのよ。みんな喜んでいたし」  青年は缶を受け取り、その場で開ける。少女も自分の分のジュースを開けた。  バス停のベンチに二人で座ってジュースを飲む。 「あなた、この街の住人じゃないでしょ?」  ジュースを飲みつつ、少女は改めて質問した。青年は「まあね」と軽く言って肯く。 「何しにこの街に来たの?」 「旅人っていうのは、旅が目的であって場所自体に目的は求めないんだ」 「それって放浪」 「そうとも言う」  何となくはぐらかされているような気がして、少女は少しムッとした。  青年は気づかずか、意に介した様子もなく飲み物を飲み続けていた。 「じゃあ、特に理由はないのね。いつまで居るの?」 「決めてない。長居はしないけどね」  果たして青年にとっての長居がどれくらいの期間なのか少女にはわからなかったが、放浪しているなら1ヶ月も居るなんてことはないだろうと予想した。  出来ればもう二、三度人形劇に付き合って欲しいとも思ったが、市民館の公演は週に一度。出来て一回だろうか。 「まあ、お金の問題もあるし。状況次第かな」 「あら、一万円札も恵んでくれるようなリッチな殿方がお金の心配?」 「うーん、根に持つね。他意はなかったんだけど」 「路上芸やってたなら、たかがあの程度に一万円払う人なんかいないのくらい知ってるんでしょう? それとも、あなたはそれくらい稼いでたのかしら?」  
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