星野惟紗

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『今日は帰るのか?』 『うん、まぁ待っててくれてる人なんていないけど』 『もうすぐあがるから送ってく』 父は一昨年他界した。 癌だった。 父のことは嫌いではなかった。 でも、愚かだと思った。 かつて恨んでいいはずの母を恨まずに、むしろかばった父は、愚かだと。 優しい人は、かわいそう。 車の鍵を渡されたアタシは、さきに助手席に座って流がくるのを待っていた。 ああ… 眠い… 明日も学校か。だるいな。 やがて眠ってしまっていたアタシがつぎに起きたときは、もう自分の家のなかだった。 流がおかまいなしにアタシの家に入ってアタシを置いていったんだろう。 鍵はどうするかって? アタシのかばんから出したのだろう。 でていくときはオートロックだからなんの問題もない。 白と黒とで統一された殺風景な部屋。 そのなかでひとりのアタシ。 押し潰されそうな想いがあった。
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