始まり

2/3
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
…数年前、五月の連休のある日、僕等は高校最後の時間を過ごしていた… ここは、札幌に古くからある商店街の一角。  「あのさ、」 真面目な顔をして佳代が聞いてきた。 「ン?」 「私達さ、付き合ってるんだよね?」 「エッ、そうなのか?」 「そうじゃないのか!?」 佳代が僕を睨む。 付き合う段取りなんて踏んでいなかった。いつの間にか、そしていつも、僕等はそばにいた。 幼なじみ。僕はいつも佳代を守ってきたと思っている。妹のようなもんだった。でも佳代の僕を見る目は、違っていたようだ。 「俺達…付き合ってんの?」 「そこ、大問題」 僕等は顔を見合わせ、どちらからともなく笑いだしてしまった。 「楽しそうだね」 和泉がコーヒーを運んできてくれた。 …ここは、和泉の父親がやっている喫茶店「イズミ」 娘の名前を店につけたのか、店の名前を娘につけたのか…それは知らない。気付けばそこに僕等のたまり場があったのだ。 ここで代金を払った事がない。 そのかわり、たまに店の掃除を手伝ったりしている。 それほど忙しいわけでもないこの店がなりたっているのは、和泉の母親が病院勤務だからだろう。相当貰っているらしい。 「おじさんどうしたの?いつの間にかいなくなっちゃって。…またパチンコ?」 「そっ!ヒマな時はいっつもよ!娘に店押し付けて」 和泉がふてくされている。 「でもいいんじゃない?おじさんいない方が気が楽だろ?」 「悪い奴だよォ、鏡介はァ」 佳代が笑う。 「オゥッ、いたか暇人共」 店に入ってきたのは、これも仲間の修斗。 サッカー好きの父親が付けた名前だが、本人は剣道一筋。なかなか親の思うように子供はそだたないものらしい。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!