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…数年前、五月の連休のある日、僕等は高校最後の時間を過ごしていた…
ここは、札幌に古くからある商店街の一角。 「あのさ、」
真面目な顔をして佳代が聞いてきた。
「ン?」
「私達さ、付き合ってるんだよね?」
「エッ、そうなのか?」
「そうじゃないのか!?」
佳代が僕を睨む。
付き合う段取りなんて踏んでいなかった。いつの間にか、そしていつも、僕等はそばにいた。
幼なじみ。僕はいつも佳代を守ってきたと思っている。妹のようなもんだった。でも佳代の僕を見る目は、違っていたようだ。
「俺達…付き合ってんの?」
「そこ、大問題」
僕等は顔を見合わせ、どちらからともなく笑いだしてしまった。
「楽しそうだね」
和泉がコーヒーを運んできてくれた。
…ここは、和泉の父親がやっている喫茶店「イズミ」
娘の名前を店につけたのか、店の名前を娘につけたのか…それは知らない。気付けばそこに僕等のたまり場があったのだ。
ここで代金を払った事がない。
そのかわり、たまに店の掃除を手伝ったりしている。
それほど忙しいわけでもないこの店がなりたっているのは、和泉の母親が病院勤務だからだろう。相当貰っているらしい。
「おじさんどうしたの?いつの間にかいなくなっちゃって。…またパチンコ?」
「そっ!ヒマな時はいっつもよ!娘に店押し付けて」
和泉がふてくされている。
「でもいいんじゃない?おじさんいない方が気が楽だろ?」
「悪い奴だよォ、鏡介はァ」
佳代が笑う。
「オゥッ、いたか暇人共」
店に入ってきたのは、これも仲間の修斗。
サッカー好きの父親が付けた名前だが、本人は剣道一筋。なかなか親の思うように子供はそだたないものらしい。
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