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「あんたらはいいねぇ、こっちゃあ最後の試合を控えて猛練習なのにさぁ」
ドサッと鞄を置き、ドカッと椅子に座る。豪快な男だと思う。それがいいのか悪いのかはわからないが。
和泉が言う。
「しかたないじゃん。応援行くから頑張んなさいよ。」
「言はれなくてもだヨ。
決勝戦の時間に合わせて来いよ、どうせ来るなら。」
「あれぇ、そン時修斗家に帰ってんじゃないのォ?」
みんな笑ってた。
ほかの友達は、この時期自分の進路の事で頭がいっぱい。僕等はなぜか気にしていなかった。どうにかなるさって思っていたから。
僕は進学は考えていなかった。父親がいないから、やっぱり無理。もう母親に苦労はさせられない。佳代は進学派。和泉は店を手伝ってもいいかなぁと言い、修斗は東京に就職希望。でも、誰の先も見えていなかった。
サラリーマン風のお客が入ってきた。和泉は応対のため席を外した。
「俺、もう行くわ。」
修斗が立ち上がった。
「なんだもう行くの?」
僕が聞くと佳代が答えた。
「和泉をお客さんに取られちゃったからだよ。」
「そんなんじゃねーよ!時間がないの!じゃあな!」
修斗がそそくさと出ていくと、佳代が小さく言った。
「和泉が好きでしょうがない…」
「あっ、そうなのかぁ?」
「ホント鏡介は鈍いわ」
佳代がため息をついた。
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