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宙に舞った夕美の一部は、自らの二十代の虚しさを表すように、静かに床へと降り積もった。
床にうずくまった夕美(少なくとも本人はそのつもりだった)は、この八年ほどの歳月をふり返り、ため息をついた。
男の前では、決してため息をつくことも、疲れた顔を見せることもなかった。
しかし確実に、三十歳を目前にした夕美は疲弊していた。
六つ年上の男は、いつでも、
「まだ若い」とか「いつも可愛い」と言ってくれる。
事実、夕美の肉体はまだ瑞々しく、顔も、童顔のせいか実年齢より若く見られがちだった。
それでもこの八年、夕美は誰にも言えない痛み、苦しみ、悲しみ、怒り、ごくわずかな歓び、疑念、喪失感、不安、諦め、後悔しようにもしきれない執着めいた愛情……
それらのすべてに漂う虚無感を、くり返し、手放そうとしては抱え、心を老いさせてきた。
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