砂に泳ぐ魚

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夫人がどれほど草木に、花々に愛をそそぎ込んでいたのか、 砂になったそれらと交じり合うことで夕美にはわかった。 子どものなかった夫人は、仕事に忙殺される夫にもほっておかれがちで、植物にすべてをそそいでいたらしい。 草花の哀れむ声、感謝の声が、夕美に届く。 しかし彼らもまた、鉢から、土から、すべてのものからの解放を味わい、歓喜の声をあげている。 夕美はそれ以上、かつて近所に住む夫婦だったものたちに興味を持たず、風とともに飛び去った。 閑静な住宅街は、三分の一ほどが砂に埋もれつつあった。 夕美はそのさまを、高く低く、漂いながら眺める。 やがて朝の最初の光が街に届き、 乳白色の砂たちを淡く強く、黄金色に染めた。 かつて、こんなにも美しい景色を見たことがあっただろうか。 夕美は、生まれてはじめて、感嘆の念というものに打たれた。 この幻想的かつ眩惑的な砂の中に、自分もまた含まれているのだ。
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