37人が本棚に入れています
本棚に追加
夫人がどれほど草木に、花々に愛をそそぎ込んでいたのか、
砂になったそれらと交じり合うことで夕美にはわかった。
子どものなかった夫人は、仕事に忙殺される夫にもほっておかれがちで、植物にすべてをそそいでいたらしい。
草花の哀れむ声、感謝の声が、夕美に届く。
しかし彼らもまた、鉢から、土から、すべてのものからの解放を味わい、歓喜の声をあげている。
夕美はそれ以上、かつて近所に住む夫婦だったものたちに興味を持たず、風とともに飛び去った。
閑静な住宅街は、三分の一ほどが砂に埋もれつつあった。
夕美はそのさまを、高く低く、漂いながら眺める。
やがて朝の最初の光が街に届き、
乳白色の砂たちを淡く強く、黄金色に染めた。
かつて、こんなにも美しい景色を見たことがあっただろうか。
夕美は、生まれてはじめて、感嘆の念というものに打たれた。
この幻想的かつ眩惑的な砂の中に、自分もまた含まれているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!