―邂逅―

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シャンティには20~25人の“女の子”が所属していて、その中にはホルモン注射や性転換手術など、人為的な行為によって女性の姿を手に入れている子もいれば、 生まれつきの姿のまま、メイクや衣装によって女性の姿になっている子もいる。 マイは後者で、しかもほとんどノーメイクみたいだった。 ウイッグさえも付けず、透明に近いマニキュアを塗っただけのようだ。 こういったお店にしては長めの、しかし十分短いスカートに、なぜか目がいってしまった。 「そうなんだ。マイちゃんはシャンティのNO.1だから、なかなか休憩とれないでしょ? 体辛くないかい?」 この店はチャージ45分で6000円と少々割高だが、それでもマイを指名する客は多く、いつもボックスに詰めていた。 「ん、おかげさまで、多くのお客さんに愛されているよ。ほんとうれしい」 「それにね、私はどうしてもお金が必要だから忙しいのは苦にならないんだよ」 少し照れくさそうな、それでいて意志のこもった瞳を向けてくる。 体が触れ合って話していることで、自分の自我の崩壊に歯止めが利かなくなることを恐れた僕は、身じろぎしながら立ち上がった。 「さて、僕は勤怠の整理をしなきゃ。マイちゃんもそこそこでお店に入りなよ。酔いが急に冷めると体に良くないよ」 なんとも不自然なタイミングと、言い訳がましい発言で僕はその場を後にしようとした。 「うん、ありがとう。お兄さんは優しいのね」 マイの言葉に振り返ると、マイのどこか幼げな、そして、はかなげな笑みがあった。 胸を締め付けられるように感じた僕は、できるだけ自然に前を向き、左手を軽く振りながらその場を後にした。
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