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休憩時間にマイと何気ない話を交わす。
そんな習慣がいつの間にかできていた。
マイについたお客がスケベで、一緒にボックスにいた“ビックママ”が困っているマイを見てお客にしなだれかかって、圧死させかかった話。
水割りを作って出したつもりが醤油を割ったもので、お客が噴水のように噴出した話など他愛のないものだったりした。
時には、少し真面目に、マイが将来の夢なんかをマイらしく訥々と、だけどうれしそうに語ったり。
マイといる僅かな時間が、その頃の僕のすべてだったのかもしれない。
そんな日常が続いたある日、いつものように、“待合所”(いつの間にか二人はそう呼んでいた)に行くと先にマイが来ていた。
マイが歌を口ずさんでいた。
その曲は聞いたことのない、
だけど、なんだか懐かしいような切なさを帯びた曲調だった。
なんで、マイそんな風に
どうして、マイ儚げに
歌うんだよ、マイ
いつの間にか立ち尽くしていた僕に気付いたマイは、少しびっくりしたような、だけどうれしそうな笑みをうかべた。
「なんだ、お兄さん来てたのか。声かけてよ、一人で歌ってて変じゃない」
僕は滲んだ視界を慌てて修正し、さりげなくマイの横に腰掛ける。
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