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「ああ、ちょっと前に来ていたんだよ。今の曲は何ていう曲なの?
僕は最近あまりTV見ないから、判らないんだけど」
隣に座った僕に、マイが軽く体を預ける。
以前は、戸惑ってしまった僕だったが、今ではその行為が至極当たり前のような気がする。
ずっと前から二人はこうしていたような、なるべくしてなったような。
「この歌はね、“つきのてらす”っていうの。
マイの歌なんだ。マイソング」
自分で言った言葉が可笑しかったのか、吹き出し気味に僕に答えるマイ。
「へえ、そうなんだ、マイちゃんは歌作るんだね。
そんな才能もあるんだ」
体に伝わるマイの体の、温かみや柔らかさが心地よい。
快感に身を任せている僕は、内容のない返事を返してしまう。
「ん、趣味っていうか、ただ好きなだけなんだけどね。
ただ…こうやってね、私の中にある思いをコトバにしてみないと、私っていうものがわからないっていうか…」
ふいに言葉を切るマイ。そして、
「私は…どこにいるんだろう?…私は…どんな存在なんだろうって…」
後半の消え入りそうな音声が、不意に僕を現実に呼び戻す。
「どうしたの?マイちゃんはいるじゃない、ここに、ね。
大丈夫だよ、僕の目の前にちゃんといる」
なんだか、急に不安になってしまった僕は、あわてて、まとまりのない言葉を掛けていた、自分をも勇気付けるかのように。
そんな僕にマイが笑いかけてくれた。
「う、うん、そうだよね!マイはここにいるよね。
お兄さんといるんだもんね。変なこと言ってごめんね」
なんてことだろう、励まそうとして、逆に励まされてしまった。
ちょっとバツの悪い笑みを浮かべながら、マイの優しさを感じていた。
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