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「あのね、話は変わるんだけどね、お兄さん次の水曜日ってなんか用事あるかな?」
次の水曜日というと、シャンティの定休日か。
そのころの僕は、友人との付き合いも一切なく、学生時代から付き合っていた、彼女とも自然消滅の形になっていた。
だから、休みといってもやることはそんなにない。
ローマの休日、モダンタイムス、戦場のメリークリスマス、七人の侍などの名作のDVD鑑賞をしたり、
人参のヘタの部分を切り取って水耕栽培みたいにして楽しんだりしていた。
「うん、特にやらなければならない事もないけど、どうして?」
逡巡したのか、一時下を向いたマイが、意を決したかのようにこちらに顔を向け、口を開いた。
「あのね、もし良かったらなんだけど、マイに一日付き合って欲しいんだよ」
「一人で、街に出るのはなんだかなって思って。あ!マイにお友達がいないわけじゃないよ!」
「ただ、この仕事してると時間とか合わないじゃない、ね?だから、お休み一緒のお兄さんならどうかって……」
「あ!でもでも、誰でもいいってんじゃなくて、ね」
いつもは穏やかなマイが珍しくテンパっているのが、なんだか妙に可笑しく、愛おしかった。
もっとそんなマイを見ていたくもあったが、あまり放っておくのも可哀想なので、
「うん、いいよ。僕もたまには街に出たいし、こんな可愛い子となら大歓迎だよ」
と助け舟を出した。
「ええ!?かわいい?のマイ?でもマイは“女の子”だよ?いいの?
お兄さんマイといたら変な目で見られちゃうかもしれないんだよ?」
“女の子”であることに引け目を感じている事を、普段は見せないマイだが、やっぱりどこかで感じていたんだな。
「お兄さんは“女の子”だからとかではなくて、
“マイちゃん”だから、一緒に街に遊びに行きたいんだよ」
臆面もなく言い切った僕は少し恥ずかしかったけど、偽りはない自分の気持ちに誇らしさを感じた。
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