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朝と呼ぶにはまだ早いように感じられる、早朝の5時少し前。
朝日が昇り始め、小鳥が囀る中で、綾瀬 姫はただじっと正座をしたまま一通の手紙を見つめていた。
それは昨日、ポストに入っていた郵便物である。
汚れのないほどに真っ白な封筒に入った手紙は、まだ一度もだされていない。
手を伸ばしては引っ込めて、伸ばしては引っ込めてを永遠と繰り返していたのだ。
正直、姫は寝ていなかった。
この学校にきて神経が図太くなった気がしていたが、まだまだ甘かったと自嘲気味に笑みを浮かべる。
封筒に書かれた、綾瀬 藤一という名前が、いやに目に入る。
ため息一つ漏らして、姫はまたのばしかけた手を引っ込めた。
姫は、あまりこの藤一という人物が好きではない。
父方の伯父である藤一は、上っ面は優しい人を装っているが、その笑みは他人から全てを遮断するような絶対的な意味もになっている。
心の中が読めない。
それが、姫が藤一を苦手とする理由だった。
ため息一つ。
相変わらず、手紙には触れられていない。
「……読まないのか?」
聞こえてきた声は、いつも聞いている声。
「………Bちゃん……」
兎の人形の姿――――ではなく、ピンク色の髪が特徴的な男性が1人ドアの前に立っていた。
壁に寄り掛かるその姿は、いやはや様になっている。
B…本名をベージェント・バン・フィルという彼は、いつもの兎の人形の姿ではなく、見たかぎりではカッコイイと思わず言ってしまうほどの美形の男性となっていた。
これが彼の本来の姿だ。
少しだけ顔をそちらに向けた姫は、眉を潜めてまた手紙に向き直る。
開きたくは、ない。
出来たら、開きたくはない。
けれど、これがもし大切な家の用事だったなら―――
姫の頭に過ぎったのは、ただただ父と母の悲しそうな顔。
「………今……見るよ…」
ため息をついて、しかし今回はきちんと手に取り、姫はゆっくりと封筒の中から便箋を取り出した。
ズラリと並んでいるだろう文字に嫌気がさしながらも渋々開く。
Bが見守る中、姫はその便箋に目を走らせ、
「………なん…で…」
震える声で、静かにそう呟いた。
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