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彼が強いのを隠しているのも、学校中に広がっている噂も、きっと本当の事なんだろう。
それは多分、大切な仲間のため。
「……アイツ、本気だな」
小さく頷く姫を視界の隅に入れながら、優一はぼんやり考える。
彼は、如月は本気だ。
本気で、優勝を狙っている。
仲間のために。
死ぬ気で、殺す気で、相手が強かろうが弱かろうが、関係なしに患部なきまでに叩き潰す。
それが如月風雪という男。
「つーわけで、俺らは怪我をしないように適度に本気をだしながらテキトーに大会に望みましょー」
「…賛成…」
「同感です」
最も、その熱い意志を読み取ったとしても、この3人が動くわけもなく、のんびりと、紅茶を啜りはじめた。
如月の狂喜などに当てられて疲れ果てた奴らはどこかへ行ったかのように、その様子は自然で、姫に至ってはケーキを食している。
それは、幸せなとある一日。
何百日と続く中で起こった小さな幸せと、大きな不幸。
こうして笑い合えたのは、きっと小さな幸せ。
そして、こうして如月風雪という男と3人が出会ったのは、出会ってしまったのは、きっと大きな不幸。
出会わなかったならば。
そうすれば、なにかが変わっていたのだろうか。
これが本当の始まり。
悪夢の、1番最初。
「……手紙」
「ん?姫、手紙入ってたか?」
空が赤く染まり、がやがやと訓練する爆発音やらが学校中に響く放課後、やはり練習の「れ」の字も見せない3人は真っ直ぐと寮へ帰ってきていた。
そうして日課通りに靴を脱ぎ、自分の名前が書かれた小さな札を「学校」の枠から「自室」へと移して、ポストを確認して、そして姫はその中に入っていたものに思わず声をだしたわけだ。
本来この学園は生徒の安全と監視のため手紙などは一切と言えるほど届かない。
日課とかポストとか言いながら、実際は活用する時がないのだ。
そのポストに、手紙が入っていたのだ。
「差出人は?」
自分の札を動かしながら優一が聞くと、姫は手紙を裏返して差出人を見て、
「――――…」
絶句した。
頭にハテナマークを浮かべる優一さえ無視して、姫は呟く。
「………おじ様から?」
それは、悪夢の始まり。
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