誰より脆い、君の為に

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  今日は綺麗な満月の夜。 その綺麗な月を、金髪の天使が見上げているのに気付く。 「ヴォルフ、風邪ひくぞ。お前のネグリジェ薄いんだか…」 言いかけて、止まった。 天使が、泣きそうな顔をしていたから。 湖底を思わせる瞳を、潤ませていたから。 「どう…したんだよ、ヴォルフラム」 「…ぼくは、独りになる」 意味がわからない。 だって 「…おれが、ここにいるじゃんか」 「でも、いずれは独りだ…っ!!お前はずっと“ここ”にいるわけじゃない!!」 「でも…っ」 その先の言葉が続かない。 何も言い返せない。 「みんな、ぼくより先にいなくなる!!グレタも、母上も、コンラートも、兄上も!!」 「ヴォル「そして…っ、お前も!!!!」 「お前だって、ぼくをおいていくだろう!!」 あぁ、天使が泣いてる。 泣かないで。 「…っ、離せ、離せ、ユーリ!!」 「離さない」 君を抱き締めて、離さない。 「ユーリ!!」 離さない、きっと。絶対に。 「…離さないよ、お前を、ずっと」 ゆっくりとおれを見て、おれに問う。 涙と共に、言葉が溢れ出す。 「……本当、か…?」 「うん」 「絶対に?」 「うん」 「ぼく、を…おいていかないで…」 「うん」 「…ぼ、ぼくを、独りに、するな…っ」 「…うん。お前を、ヴォルフを独りになんて、しない」 ごめんな、ヴォルフラム。 ずっとずっと、不安だったんだよな。 気付いてやれなくて、ごめん。 「ヴォルフラムがそんなに寂しくて、不安で仕方ないなら、おれはどこにもいかない。…そしておれがいなくなる時は、どんなに嫌がっても、お前を連れていく」 「絶対、だぞっ…約束、だからな…っ!!」 「うん」 ヴォルフラムを、おれはさらに強く抱き締める。おれはここにいる、そう、ちゃんと感じてもらうために。 ――綺麗な満月の夜、天使の本音を聞いた。 天使は誰よりも強くて、誰より、脆かったんだ。 -fin-
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