第一章

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東京都新宿区高田馬場。都内のキーステーションである新宿と池袋に挟まれた好立地でありながら家賃は安い。近くに早稲田大学があるからか学生の需要があるのだろう。都の西北は学生のみならず貧乏人にも優しい街だ。 高田馬場は手塚治虫の名作『鉄腕アトム』でアトムが創られた科学省があった場所でもある。それと手塚治虫が社長を勤めた『手塚プロダクション』がある。その縁でJR高田馬場駅の発車メロディーは『鉄腕アトム』のオープニングである。内回りと外回りで高音低音と使い分けているのだ。最初にこの駅を利用したり通過する客は驚くに違いない。 そんな高田馬場は日本有数のラーメン激戦区だ。全国の有名ラーメン店が凌ぎを削る場所でもある。 そんな場所で競合店とは一切無縁の店を経営する男がいた。『氷室中古品店』の店主氷室だ。氷室とはあくまでも偽名ではあるのだが。 高田馬場の雑居ビルで中古品店を営む氷室のもとにやってくる客の目的は店頭に並ぶ品が目当てではない。 客の目的は『人間の売買』である。
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