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「へぇ。パンケーキ」
「うん!」
感心した様子の真弥に杏木が力強く頷いて応える。
担任とはいえ、真弥に自慢してくるあたり、作れたことがよほど嬉しかったのだろう。
「……ほら」
しかも、それは一人ではないらしく、抱き付いている杏木をひっぺがして、
「……すごいでしょっ」
どうだ、と言わん許りに、真弥の顔に冷えたパンケーキを突き付ける、長い髪を後ろで一つにまとめた仏頂面の少女、山野沙稚(やまのさち)が珍しく自慢げだった。
「おお。すごいすごい」
「わっ、私も頑張ったんですよぅ」
最後に、沙稚の背中に隠れながら、何に対しての緊張か顔を真っ赤にしながら今にも泣き出してしまいそうな声を出す、またも少女、禍夜綾香(かやあやか)。
「うんうん。綾香もよく頑張った」
沙稚の背中からちょこんと覗く小さな頭をぽんぽんと優しく叩いてやると、
「……ふぇ~~~~~んっ」
いきなり泣いた。
いや。何で?
「わかってくれるのは先生だけですよぅ! ひどいんですよぅ! 華露理ちゃんとか伽沙凛ちゃんとか杏木ちゃんとか沙稚ちゃんとかぁ! 皆パンケーキ作るって言うのに! 真弥先生にあげるって言ったのに! パンケーキの生地に唐辛子とかラー油とか豆板醤とかキムチとかハバネロとか入れようとしたんですよぅ! だから、だから私だけでも――というか、むしろ私一人だけで頑張ったんですよぅ……!」
「そ、そうか。――あー……本当に苦労したんだな……えらい、えらい」
本当に、綾香が頑張っていなければいったいどんな辛味を持ったパンケーキを目の前に突き出されていたことか……。
というか、そもそもそんなものができあがってしまっていたら家庭科の授業は大変なことになっていただろう。
本当に、この癖の強い四人と一緒にパンケーキなんてものを作った綾香には感謝しなければならないと思う。色々と。
そう思うと賞状の一つでもあげたいと思うが、当然そんなものはない。ので、とりあえず撫でてあげよう。
よしよし、と。
「うぁっ……恥ずかしいですよぅ」
「はいはい。お前さんは撫でられるのが恥ずかしいとか思う前に、そんなことで泣く方が恥ずかしいとは思わんのかね」
またじわりと瞳が潤んだ。
真弥は慌てて優しい声を取り繕って「まあ。アレだ! 人前で泣くのも一種の長所だよな!」とか何とか――。
とにかく。
真弥なりに必死でなだめたのだった。
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