Prologue

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   そして、彼らが林檎を食べちまったのにもまた色々とストーリーがあるんだけど――。  うん?  知ってるって?  ……パンが無いならリンゴを食べればいいと言われた? 阿呆。それはマリー・アントワネットの浪費癖と無思慮の有名な発言だ。あとリンゴではなくケーキとかお菓子とかで語り継がれているものだよ。  わかったらとりあえずお前は勉強し直して来い。  ……さて、話は逸れたけどどうして彼らが林檎を食べてしまったのか。  ――それはな一匹の“蛇”に騙されてしまったからだったんだ。  信じられない話だろう?  人間が蛇なんてのに騙された、なんてさ……。  じゃ、ここらでお前達に一つ質問だ。  お前達なら蛇に騙されたか?  神様が食べるなと言った林檎をさ。  たかが一匹の蛇が仄めかしただけで――お前達は林檎を食べるか?  うん。  普通に考えて答えは「No」だろうさ。  ところが、アダムとイヴは神様を裏切り、蛇の言葉通り林檎を食べてしまいました、とさ。  ――それは、なぜだと思う?  それは、実に皮肉な話でな。  林檎によって俺達が罪を背負うことを代償に得た『善』と『悪』を彼らが持っていなかった、だけ。  ……ん? それがないとなぜ“蛇”に騙されるのかって? うん。良い質問だ。  じゃあ、綾香に訊こうかな。  どうして綾香は俺の話に疑問を持って俺に質問をしたのかな?  ……………あぁ、すまん。  そんな顔をしないでくれ。謝るな。むしろ俺が謝るから……。  ごめん。ごめんなさい。いや本当に。別に責めたつもりじゃなかったんだ。本当にごめんなさい。  ……まあ。そうだな。うん。  本当にすみませんでした。  …………と、とにかく、話の続きを簡単に説明すると。  つまりお前達が俺の話を真剣に聞いてそれを信じていたこと。――それが『善』。  そしてお前達が俺の話を聞いている上で疑問という疑念が生まれた。――それが『悪』。  つまり喩えるなら信じることと疑うことだ。  ……だから、綾香を責めたつもりじゃなかったんだって。  ただ単に一つの例として挙げさせてもらっただけなんだってば――ああ、泣くな、泣くな!  とりあえず落ち着け、な? お前さんは何も悪くないんだから何も気にしなくともいいんだってば!  
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