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「何がしょうがないの?」
誰かに訊かれて、真弥は振り返った。
「……ん? 林檎?」
そこにいたのは、乱雑に伸ばされた色など微塵もない純白の髪と大きな真紅の目が特徴的な少女。
鈴灯林檎(りんどうりんご)。
彼女は、真弥の受け持つクラスの生徒の一人であり、真弥が勤めるこの学園が始まって以来の天才と呼ばれている――学園最凶の問題児。
……だと言われているのだが、
「それ、花? 真弥君。この花がどうかしたの……?」
「んー……コイツ最近元気なくてな。少し気になるんだよ」
「ふーん」
真弥は、今目の前の花を興味深そうに覗き込んでいる少女が言われているような悪いやつだとは思わなかった。
ここに就いたのはつい最近のことではあるが、まあ、そんなものはそのうち慣れるだろう。だから本当に入ったばかりの頃はともかく今は気にしていないのだが――。
「ちょっと、可哀相だね……」
何故、鈴灯林檎という少女が『最凶』などと言われているのか、これだけは今も気になっていた。
真弥には、どう見ても彼女が典型的な問題児と言われる部類の生徒のように暴力的な人間であるようには見えない。
彼女の容姿についてはともかくとして、別段精神的に何らかの障害や問題を持っているようにも見えない。
だというのに、だ――。
「それよりも。林檎は今日も一人なのか?」
「うん。だって、あたし、友達いないから」
林檎はそう言った。
「そんなわけないだろう」
「あるわよ。だからあたしは今一人なんじゃない」
「いや。いやいや……なんつーか……」
「みんな、あたしを避けてるんだもの。真弥君、昨日も私に訊いたけど。誰も私に近付こうとしないのに、友達なんて、一日二日でできるわけないじゃない」
うーん……、こればかりは本人にも周りにも問題がある気がする。
「……あたしは、みんなとは違うから」
……これは大問題だと思う。
努めて表情には出さないように気をつけて、真弥は花を覗き込んでいる林檎の頭を優しく撫でた。
撫でた手から伝わるくらいに、林檎は驚いていた。
「……なに……?」
手の下で小さな頭が回り、細められた赤い目が真弥を不機嫌そうに睨む。
真弥は、じっとりとしたまなざしに苦笑で応えながら、
「俺はお前さんの友達だよ」
「……ありがと」
小さな声ではあったが、それはたしかに真弥に聞こえた。
少し、というか、かなり嬉しかった。
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