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「ねえ。真弥君」
「ん?」
「大好き」
「……そりゃどーも」
教職者としては良いとは思うが、世間的にはロリコンと指を指されて言われるだろうな、と内心でため息。
「えへへへー」
それを知ってか知らずか、林檎は細めた目をほころばせて笑った。
正直、可愛いと思った。
「じゃあ。真弥君のあたしへの愛を確かめられたところで今日はもう帰るねっ」
「はいはい。気をつけて帰りな。寄り道なんてするんじゃないぞ」
「はーい!」
「知らないおじさんに声をかけられても絶対について行くなよー」
「わかってるってば!」
顔をこちらに向けたまま手を振り続ける林檎に軽く手を振りかえして応えてやる。
「あいたっ」
こちらを向いたまま手を降り続けていた林檎が閉まっていた扉にぶつかった。
「…………」
扉にぶつかった林檎は、ぶつかったことによる驚きに硬直してか、目を丸く見開いたまま動かない。
「あー……次からはちゃんと前を見て歩こうな。ケガとかしてないか?」
その微妙に気まずい空気に耐えられず、真弥は林檎に適当に声をかけてやった。
「……うん。大丈夫……?」
……本当に大丈夫か、と思う。
ただ、それでも、かすれて消えてしまいそうな小さな声ではあったが、ちゃんと返事はあった。どうやら本当にただ驚いていただけらしい。
「そ、それじゃあねー!」
「はいはい。さよなら」
恥ずかしそうにパタパタと走りさっていく小さな背中と長い白髪を見送りながら、またため息。
「ふーむー……?」
やはり、どう見てもそんなたいそうな問題児には見えない。
どう見ても普通の女の子。
どう見てもまだ見てて不安にさせられる小学生。
そんな彼女を、どうして周りの人間は恐れるというのだろうか?
わからない。
どうして、なぜ、何を――全然わからない。
どうしてもわからなくて以前に彼女の元担任や同学年の教師達、教頭、校長、果てには周りの生徒やらに訊いてはみたが、皆が皆、口をそろえて「どうしてあの鈴灯林檎と普通に話したり笑ったりできるのか」なんて逆に訊いてくるのだ。
これでは、意見を参考にしようなんてしても参考のしようがない。
だって、真弥が訊きたいのは、どうしたら彼女と接することができるかなんてことではなく、どうしたら彼女が皆から受け入れられるか、なのだから……。
………………。
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