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でも、俺は通り過ぎることがどうしてもできなかった
そいつの声はそれだけの力があった
俺は少し離れた、形だけ保たれた植え込みに座りそいつの歌を聞いていた
幼い顔には少し不釣り合いな低く重い声。たまに音を外して同じところを数回繰り返したりしてた
低酸素にも関わらず良く響き、耳に心地よいどのくらいそうしていただろう、不意に彼の声が止んだ
「青海(おうみ)?ゴメン!遅くなった!」
その直後、すまなさそうな声色で駆け寄る友人らしき女の子。白髪の髪をサラサラと風になびかせていた
「みぃ!遅いよ!」
「みぃって言うな!バイト長引いちゃったんだよ」
「まったく!おーちゃん泣いちゃうわ!」
「そんなキャラじゃないでしょ、あんた」
しばらく彼らはそんな口論をしていた。まるで恋人の痴話喧嘩のようなそれには苦笑がこぼれてしまった
あの歌も、もう歌ってくれそうにないので、俺はそろそろ駅にむかうかと腰を上げた
ズボンに付着した土埃などを軽くパンパンと払い落とした
「ねぇ」
土を落とすために中腰になっていた俺の頭上からさっきの声が降ってきた
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