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「君さ、ずっとここで俺の歌聞いてたでしょ?」
気付いていたのか…
「不快だったのなら、謝る」
俺はバツが悪くなってポツリとそれだけ言った
「不快…?っぷ…あははははは!まっさかぁ!全然不快だなんて思ってないよ」
「へ?」
てっきり咎められると思っていた俺は、彼の大爆笑に拍子抜けしてしまう
「俺が聞きたかったのは、俺の歌のことだよ。どうだった?」
「どうって…」
驚いた。なにを言いだすのかと思えば『歌の感想』だなんて
「ほら、青海。この人困ってるじゃん。それに本当にこの人が青海の歌聞いててくれた証拠ないでしょ?」
「絶対この人聞いてくれてたよ!だって歌に合わせて足でリズム刻んでたもん!」
せっかく彼女がフォローしてくれたのに、この青海ってやつは一歩も引かない。つか、俺リズム刻んでたんだ?気付かなかった…
「ねぇ、俺の歌どうだった?駄目ならそう言ってくれていいから」
「……良かったよ…」
青海って人があまりにも必死に聞いてくるから思わず言葉が出てきた
「本当!?本当に本当!?」
青海って人は自分で聞いてきたくせに信じられないという顔で俺の腕を掴んできた
その様子がおかしくて、俺は軽く笑いながら「本当だよ」と念を押してやった
そうすると彼は「ありがとう」と満面の笑みを俺に向けた
「じゃあさ、君は音楽好き?」
「音楽?」
「そう!俺ね歌手になろうと思ってんだ。よかったら聞いてほしくて」
「歌手に…」
俺は目を見張った。今の時代に歌手だなんて古風にもほどがある。
今は音楽クリエイターが人のリラクゼーション効果を計算し、人工的にドラムやギター、果ては歌声まで打ち込みで作ってしまう。
自分自身で歌うなんて、この酸素の薄い地球ではすぐに酸欠になってしまうのは目に見えている
それなのに、この男は歌おうと言うのか…
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