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警戒の色を強めた小さい私は、小さな両手を胸の前に置いて半歩後ずさった。
気分良く遊んでいた所に、ちょび髭が乱入してきたんだ。
まあ、そりゃそうだろう。
「いや、本当にすまない。おじさんは別に人攫いでもなんでもないんだよ」
予想以上に怖がらせた事に驚いたのか、ちょび髭の男性は砂場から飛び退いた。
「おじさんはなあに?」
だあれ、とは聞かない辺りがミソだ。
「通りすがりのモノだよ」
ちょび髭を指で撫でながら、エセチャップリンは朗らかに笑った。
こんな事を言っては失礼だが、このちょび髭には笑顔という表情は似合わない。
小さい私にもう一度微笑みを見せると、ちょび髭はシルクハットの鍔をさすりながら、辺りの景色を見回し始めた。
「……懐かしいな。あの頃のまんまだ。……うん、ブランコは当時は無かったか? でも、この風景は」
ちょび髭の視線があちらこちらに飛び交う。
呟きを漏らす度、ちょび髭の表情は憂いを帯びる。
お、この表情は中々に渋いな。
「……おじさんの後ろにいるのはだあれ?」
夢中で首を回すちょび髭に、小首を傾げた小さい私が問いかける。
その私の言葉にちょび髭の目は見開かれる。
私も驚いたけど、小さい私は私を見ていない。て、事は私の事じゃない。
いや、“私”だらけのややこしい事言ってごめん。
驚きの顔を浮かべたのは一瞬。ちょび髭の顔には、三度優しい笑顔が広がっていた。
「“彼女”が見えるかい?」
小さい私はコクンと頷く。
その表情には、警戒の色はもう無いね。
……ちょび髭の優男光線にトゲトゲした物は全部抜かれちまったらしい。
ふむ、と考え込む仕草を一つ見せてから、ちょび髭は屈んで小さい私と目線を合わせたんだ。
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