不思議・ド・ソレイユ

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何となく、自分の体が軽くなるのがわかる。 気分が、じゃない。文字通り、身体が、だ。 砂場から離れて、私は公園の出口へと向かう。 砂場では、二人の幼い子供が仲良く城作りを再開した所だった。 うん、実に微笑ましいね。 「もう……よろしかったのですか?」 背後から、透き通るような実に美しい女性的な声が聞こえた。 声の聞こえた方向を、私は振り返らない。 振り返らない代わりに、私は砂場の光景を目に焼き付ける事にする。 「……声を掛ける事も出来ます……が」 美しい声は途中で止んだ。 気を遣ったのかな? そんなに憂いに満ちたいい顔してたのかな? さっきのちょび髭みたいにさ。 私は首を振る。 もはや得意技だ。 感情はどうであれ、首さえ振れば少しの間だけなら沈黙の時間を作れるからね。 背後の彼女は黙ってる。 なんかしんみり。 ……。 …………。 ………………。 あー、ダメだ。 「わ、び、びっくりしました! びっくりしましたよ!? 私は!」 沈黙に耐えきれなかったのは私の方。 ……要求しといてなんですがね。 急に振り返った私を見て、背後にいた彼女は目をぱちくりさせてるね。 悪い事したかね。
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