死にたがりの視界

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部屋に帰ってからおふくろとオヤジはリビングのテーブルに腰を降ろした。僕は骨壺を持たされ、置き場所に迷ってリビングで突っ立っている。 誰も何も言わない。おふくろは抱えていた遺影をじっと眺めている。オヤジがふいに立ち上がって、僕が持っている骨壺を取り上げた。 『お前は部屋に戻れ』 リビングから出て二階の部屋に戻ろうと階段を上がる。上がった先には弟の部屋が在る。 「…してバイクなんか…」 オヤジの声だ。僕は一瞬ビクッと体が震えた事も気にせず、そっと階段を下りてリビングのドアの手前まで行った。 「お前は知らなかったのか」 「洗濯物をしていて…バイクの音もお兄ちゃんかと思って」 「…アイツはなんで貸したんだ、無免許なのは知っていたんだろうに………くそっ」 何かを叩いたらしい。突然の音に一瞬体がビクつく。 「お父さん、お兄ちゃんは悪くないんですから…」 「じゃあ誰が…誰があの子の命を………」 足が階段の方へ自然と向いた。それ以上会話を聞く必要が無くなった。 僕が全てぶち壊した。それは弟が死んだ事とは別の、もっと痛みの強い事実だった。 階段を上がり弟の部屋を横目で見て自分の部屋に戻る。ドアに鍵を掛けてベッドに体を預けた。 それから、自分の犯した罪とオヤジ達の突き刺す様な眼が頭に浮かんできて、急に息が出来なくなった。シーツを掴んで胸を抑えて、心臓の鼓動が大きくなっていくのがとても怖くなって。 ─バイクの事故 ─アイツが貸さなきゃ ─どうしてあの子が 気がつくと ワイシャツの袖が真っ赤に染まっていた。 右手は カッターをキツく握り締めて 外は真っ暗。時計は12時を回った所。 気を失っていたんだろうか、しばらく頭がまわらなくて混乱していたが、少しずつ記憶の断片を掻き集めて思い出す。 聞こえてくる声や脳裏に浮かぶ親や親族の視線が怖くて逃げたくて 僕は自殺を図った。 そしてそれは失敗したのだ。
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