死にたがりの視界

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弟が死んでから2週間。家族は少しずつ日常を取り戻していた。 新しい日常を。 オヤジは朝会社へ出る。おふくろも午前中パートに出掛ける。僕は週4日、予備校とバイトをしに行く。 ただ今までと違うのは、僕だけ家族から隔離した日常を送り始めた事だけだ。 食事も別だし、何かと家族を避けて通る。葬儀の翌日から2、3日の間におふくろが部屋に来て何度か僕を呼んだけれど、忙しいと言って顔も見せなかった。 合わせる顔が無かった。弟を殺した僕を誰も許してはくれない。正直、もう予備校に行って良い大学に行けというオヤジの指示を果たせたとしても許してはくれないと確信していたから、予備校に行くのも嫌だった。 だけど家にいるよりはマシだった。弟が死んだなんて知ってる奴はごくわずかだし、その原因を知る奴なんていない。 家にいる間は、僕は殺人犯でしかなかった。 家にはコンビニで買った夕飯を持って帰った。最も食欲もあまり無かったから、食べなくても良いくらいの気分だった。 時々無性に息苦しくなったりイラついたりする。そんな時はアレをする。 ─自傷行為。 最初は手首だけだった傷が、今では腕や足、手の甲にまで広がった。洗面所の大きな鏡に映る傷だらけの自分。 もう弟の顔さえ忘れてしまった。ただ殺人を犯したのに法で裁かれない自分を、どうにかして裁かなければと思った。でなきゃやりきれない。だけど自殺をする勇気、それが僕にはどうしても無くて余計に苦しかった。 そんな生活が何ヶ月か続いた。日に日に歪む自分の体、誰にも言えない傷、他人が傷を見た時の軽蔑した瞳、家族からの疎外感─そんな苦痛の全てが自分の償いなんだと思うと、逆に気持ちよくて歯止めが効かなくなっていた。 あの人に出会うまで。
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