死にたがりの視界

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今日は予備校の日だ。おふくろがパートから帰らないうちに家を出た。まだ時間にかなり余裕がある。予備校が始まるのが8時、今は4時。 自宅から駅まで、歩いて十数分かかる。予備校まで最寄りから二駅。結構距離がある─今まではバイクで通っていたから気付かなかった。 予備校近くの駅に何とかついた。とりあえず歩きながら、時間を潰す方法を必死に考える。そのうちに、図書館があったのを思い出したからそこへ向かう事にした。 図書館に着くと、もう時計は5時を回っていた。勉強という気分でも無い。暇つぶし程度にと、ニーチェの本を手に取って席に着いた。 マキャベリも嫌いじゃないけどニーチェの方が好きだ。下手な小説より、こういった哲学書の方が僕は好きだった─なかなか理解されないけれど。 時計を見ると7時を過ぎていた。少し早めに行っておくか、そう思い席を立った。 本を元の棚に戻す。この図書館は県内でも大きい方で、天井まで棚が続いている。この本は上の方にあった為、辺りを見回して踏み台を探した。すぐに見つけて、上って本を戻そうとした時だった。 「あの…すいません、その本、ニーチェの本ですか?」 静かな図書館の中、か細い声が聞こえたので声の方を見下ろす。 女学生が僕を見上げていた。おさげ髪で、スラッとした…というより、痩せた感じの女の子だ。 「はい、そうですよ」 慌てて返事をした。 「えっと…それ、読みたいんで。戻すなら貸していただけますか」 あぁ、と愛想笑いをして、踏み台から降りて本を手渡す。どうも、と一礼して女学生は行ってしまった。 近年の女学生は無愛想だな。仲間といるとキャアキャアと騒ぐくせに… なんだか気が抜けてしまった。ニーチェの言葉が頭を巡ってるせいかもしれない。おかげで予備校の授業もほとんど頭に入らず、ただひたすらノートに黒板の文字を書き写すだけの時間になってしまった。 それでも家よりマシだ。何なら、このつまらない授業をずっとずっと受けていたい。それ程家に居るのが嫌だった。
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