死にたがりの視界

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体中が痛みだして眼が醒めた。窓の外は明るい。 どうやら切ったまま机で眠ってしまったらしい。血まみれのティッシュとカッターが机上に転がっている。 今日は予備校もバイトも無い。だけど家にも居たくないから、図書館へ行こうと支度を始める。 シャワーを浴びようと、忍び足で部屋を出て一階へ降りる。幸いオヤジもおふくろも仕事へ行っていた。さっとシャワーを浴びる。腕の血を洗い落として、部屋に戻り包帯で隠す。着替えて鞄を抱え、そのまま部屋を出た。 昨晩の雨はすっかり上がってカラッと晴れている。空が眩しい。図書館まで、バスを使わずのんびり歩いた。 ポタポタと髪から水が垂れてきた。充分に水気を切らなかったからだ。 家から20分程歩いた場所に公園がある。そこを通れば図書館は近い。僕はいつものようにそこを通ろうとした。 ─キィ、キィ ブランコの揺れる音。振り向くと、どこかの主婦だろうか、俯きながらブランコに揺られている。周りには誰もいない。主婦が1人で昼間から… なんだか危ない気がして、足を早めて図書館へ向かった。館内は静かで、たまにカウンターのスキャナ音が響く。地元のは、予備校近くのと違って若干小さい。 今日は推理小説を読もうと、本を選び席について1日を過ごした。 途中昼食に出たが、そのまま図書館で1日を過ごした。閉館時間になったので外へ出る。空は真っ暗だ。 とりあえず家に向かおう。灯りがついていたら、ファーストフードでも行ってもう少し時間を潰そう。 そんな事を考えながら先程の公園を通ると、またあの音がする。 ─キィ、キィ ずっと此処にいたのだろうか…僕は何故だか気になって、気がついたら声をかけていた。 「あの…どうかしたんですか?」 女は顔を上げた。なんだか見覚えのある顔だ。街灯に照らされた女の眼は赤くなってるように見える。 「いえ、何でも無いです」 「だって朝からいたでしょう…何で…」 「私に何か用ですか」 女はキッと僕を睨みつけた。だけどそれは強がりだとすぐにわかった。 「寒くないですか」 「・・・」 「僕が邪魔ならそう言ってください。そうでないなら…話しませんか?」 女は無言だったので、僕は隣のブランコに腰をゆっくり下ろした。 しばらく続く沈黙。顔を上げると、木の隙間から星空が見えていた。
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