『彼の仕事と彼女の性格』

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ここは第3文明。  何も知らずに暮らしている、普通の人間たちとは別の世界。  普通の人間たちの住む世界を、オレ達は第1文明と呼んでいる。  第1文明は欠陥だらけだ。  そう、聞いている。  人間たちは、考え、過ちを犯し、それを繰り返す。  そんな人間たちを回収し、修繕する。  そして、その人間を再び第1文明の世界に送り込む。  何事も無かったように、普通の生活に戻す。  それが、オレ達の仕事だ。  修繕は全部第2文明のやつらがやってくれる。  オレ達第3文明の中の下っ端は、第1文明の人間を回収してくるだけだ。  つまり、人攫い。  これが過ちと思うだろうか。  だけど、この人攫いは仕事だ。  何の罪にも問われない。  むしろ、ここでは仕事をしないやつは欠陥品扱いされる。  もちろん個人の主張なんてもってのほかだ。  ある日オレの同僚がこんなことを言った。  「自由な恋がしてみたい」  次の日、その同僚はいなかった。  そのことを誰も口にはしない。  数日後、その同僚は何事もなかったかのように仕事に戻る。  変わった事といえば、恋がしてみたいなんて発言しなくなったことだ。  そう、修繕された。  ここでは迂闊な発言は命取り。  みんなわかってる。  ここに自由なんてない。  ただ、仕事をするだけだ。  でも、最近思うことがある。  空を見上げると、少しばかりだが雲がある。  あの雲を青いクレヨンかなんかで、塗ってやりたいって。  こんなこと口にしたら最後、欠陥品どころか廃品かも。  だからどんなことがあっても口にしない。
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