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花蓮が消えた。
その事実は、土方から伝えられた。
まるですり抜けるように…
零れ落ちるように…
花蓮は沖田の腕の中から姿を消していたのだ。
やがて副長助勤の招集がかかる。
重い足を引きずって呼ばれた部屋へと赴けば、そこには土方他、近藤や山南もいた。
組の番号順に座る。
沖田は一番前の列の端に腰を下ろした。
他の者は、空気から察するに事態を知らないようだった。
何だろうかと燻る緊張と好奇心を押さえつけてそれぞれが席についた。
「全員集まったな?」
辺りを見回して土方が口を開く。
「皆、急な招集すまなかった。今日の話は、長州の動き…それから、花蓮のことだ。」
ドクン…と。
自分でもわかるほど心臓が飛びはねたのに、沖田は冷めた気持ちでいた。
土方の話す長州の動きでは、火事の件と吉田の動きについての近況報告が行われた。
空っぽな沖田の頭に、それらは滑り込むように入ってくる。
理解できた。
聞いていた。
でも沖田の心は真っ白で…何も感じなかった。
冷めた自分が、そんな自分を笑っているような気がする。
或いは、叱咤するのだろうか?
とりあえず、そんなんじゃダメだと、そう言っている。
それなのに、沖田には何かを考える気力がわかなかった。
「…それから花蓮のことだが。」
まるでそれは、ついでのように語られた。
「以前伝えたように、アイツは長州…いや、吉田と関わりを持つ。今日から当分、向こうの調査に回るから、知っていておいてくれ。」
それはあまりにも些細なことのように語られ、部屋の空気が一瞬止まった。
「ふ、副長!」
藤堂がシュタっと手をあげた。
「それはつまり…花蓮ちゃんはしばらく留守ってことですか?」
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