消えゆく影

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「…そういうことだ。」 サラリと言って立ち上がる土方。 話は終わったと言わんばかりで、皆もそんな土方の様子に花蓮はすぐに帰るものなのかと錯覚する。 「アイツが屯所を離れたんだ。今のところ、吉田が俺たちを集中して狙うとは考えにくい。…よって、巡察を再開する。」 花蓮を狙う吉田は、花蓮と関わりのある者を狙った。 それゆえ、副長助勤以上の者は、許可なく屯所を離れることを許されなくなっていたのだ。 「花蓮のいるいないに関わらず、相手は吉田だ。警戒は怠るなよ。」 花蓮がいなければ、吉田は新撰組を執拗に狙うことはない。 まるで厄介者がいなくなったかのような土方の発言に、永倉が待ったをかけた。 「土方さん…花蓮を、一人で行かせたんですか?」 あれほど、屯所から出さなかった花蓮を…。 探るような永倉の視線を、土方はふんと笑って一蹴した。 「奴らと戦うならともかく、調べるくらい…一人でできねぇ女じゃねぇだろ。」 ここにいる者たちは知る、花蓮の実力。 表面上彼女は副長助勤以上の世話をしているが、夜には長州志士の暗殺に加わるほどの剣の腕を持っていた。 もちろん永倉もそれを知っているが、それにしても今回の土方の花蓮への命令は、少々不自然でならない。 第一花蓮はつい先日まで先頭に立って長州志士を斬ってきた。 詳しい戦略は、永倉も知らない。 しかしそれは何か目的があってのことだとは思う。 それを今になって急に方向転換とは、策士・土方らしからぬ策略だ。 「では、以前までの長州志士の抹殺はどうするんですか?」 引き継ぐのか、破棄するのか。 その答えで、永倉にはだいたいがよめる気がした。 「あれは最近京に増える長州のやからへの警告だ。もうしばらくはやらなくてもいいだろう。奴らが目立つような動きがあれば、また命ずる。」
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