第二章

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――――いつからだろうか? 泣くことも笑うこともしなくなった。 というか出来なくなった。 年数を重ねていくうちに、心が何も感じなくなっていく。 感じたとしても、それを表に出すやり方を忘れてしまった。 でも、心が何も感じなくなったとしても、人を殺すのは当然だがいい気分ではない。 時折狂人などで、人を殺すのが楽しくて仕方がないという奴がいるが、そんなのはおかしいと思う。 代われるのなら代わって欲しい気もするが、そんなのは許されるはずもなく。むしろそういう奴を狩るのが俺の仕事だ。 俺の名は『蝶』。 正確に言えば、第15代目『蝶』だ。 代々リアリストの頂点に立つ暗殺者のコードネームは『蝶』と決まっている。 そして、受け継ぐ者はある刻印を持っている者だけだ。それが何かは今は言わないでおこう。 生まれた時からその刻印を持ってはいたが、別に本名が蝶な訳じゃない。ただ、本名はもはやあまり意味がない。名前は呼んで貰えなければ存在価値がないのだから。 名前を捨てたのはいつだったか。 物心ついた時にはすでに俺は蝶と呼ばれていた。ただ、弟だけは、俺のことを『兄さん』と呼んでいたけれど。 でも、その弟も、もう俺を兄として接することが出来なくなった。だから、俺を俺として扱う者はもうこの世界にはいない。 『蝶』として生き、『蝶』として死ぬ。 それが俺に与えられた運命だ。 先代も、先々代も、その前も、ずっとそれを繰り返してきた。 どうして俺がそれを覆せることが出来よう? 人を殺さなければ存在価値がない俺に、幸福になることなど求める権利はないのだ――――…。
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